株式会社エコニクス
環境部長 油津 雄夫
森に降った雨は、土に染み込み、貯えられ、栄養分とともにゆっくりと川に流れだして、万物の生命を育み、人々の暮らしにうるおいを与え、産業を発展させ、海の幸を育て、やがて蒸発し、再び雨になって地上に帰ってきます。森-川-海は生命の源である『水』で一つに結ばれています。森林は水質の浄化、流量・水温の安定や栄養分の供給など、魚貝類の繁殖・成長にも大切な役割をはたしています。北海道指導漁連の柳沼武彦氏の名著「木を植えて魚を殖やす」には、サケ、マス、ホタテ、コンブなどの北海道の漁業が、上流の森林に支えられている実態と、100年先を見据えて森林づくりに取り組む浜の母さんたちの様子が生き生きと描かれています。
森林は、漁業ばかりでなく、私たち人間の生命、生活、産業活動に重要な役割を果たしています。森林とは、地球表面の土地とそこに根を張った樹木を主とする植物の集団であり、そこに棲む動物や微生物とともに“生態系”を形成しています。葉緑素を持つ植物(樹木・草など)は、太陽エネルギーを受け、二酸化炭素・水・無機養分を空気と土地から取り入れて光合成を行い、有機物を作り出し、植物体として成長します。植物の枯死体(枯れ木や落ち葉)や動物の排泄物・死体は土の中の小動物に食べられ、さらに微生物によって二酸化炭素と無機物に分解されて植物の養分になると共に、土壌粒子と混合し、土壌は団粒構造の豊かな“良い土”になっていきます。団粒構造は、隙間が多くて柔らかく、水の浸透・保水・通気が良いという植物の生育にとって理想的な土壌構造であるばかりでなく、この構造が発達することによって、降った雨水は土壌によく浸透するので、その分だけ地表面を流れ去る量は少なく、土壌自体が押し流されにくくなります。また、団粒構造そのものがもともと水に流されにくい性質を持ち、地表面を覆う落ち葉や下層植生も水を吸収し、土壌の流出を防いでいるのです。この団粒構造が、水に溶けた色々な物質を吸収し、きれいな水、まろやかな水をかもし出し、また、洪水・渇水を防いでくれています。