株式会社エコニクス
顧問 北星学園大学教授 辻井 達一
この3月にオーストラリアのブリスベーンで開かれたラムサール条約会議では従来目標の中心になってきた水鳥の生息域としてだけでなく、特徴的な魚類(魚類相の10%以上が地方固有種)も湿地の保全のクライテリアに含まれることになりました。漁業もまた議論の対象になったのですが、これはことに開発途上国の反対が強くて今回は見送りになったのです。特徴的な魚類というと北海道ではさしずめイトウなどが真先に思い浮かびますし、日本ではアユなどもまさに特徴的な例になるでしょう。
世界的にはマングローブ湿地の多くの魚類の生息が保護される方向付けになります。それは結局は湿地の生態系と生物的多様性の維持を通じて湿地の持続的な利用を可能とするものとなるはずです。今後、沿岸域を含めた湿地の各種の環境に関する調査も必然的に重要になってきます。魚類の問題というのはつまりそれを支えるプランクトンや水質に関わりを持ちますし、海岸地形や陸上を含めての沿岸生態域とその維持に関する問題だからです。
さて、先に湿地の意義について述べましたが、直接的に利用するということの他に、そのもの自体の効果ということも見逃せません。湿地はそもそも水を多く含む存在ですから水を貯える能力が高いわけです。しかもそこに貯えられた水をゆっくりと排出しますから水のコントロールシステムとしてはきわめて優れています。ことに泥炭を含む湿地ではその能力はもっと高くなります。いわばファジーなコントロールシステムだということになるでしょう。森林の貯水能力が注目されるようになってきましたが湿原のそれも洪水制御の点でことに評価されつつあります。1993年にアメリカ南部を襲った豪雨でミシシッピー河が大氾濫を起こしましたが、その原因の一つは流域の湿原の農地転換のやりすぎだと考えられました。洪水の後で全ての氾濫農地を回復させることはしないで、特に排水の悪い部分については湿地に戻す計画が立てられました。湿地の洪水制御機能が認識されたものです。