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1996.12.01
ECONEWS vol.042

その土地縁りのキノコ味!

北海道大学農学部応用生命学科
助教授(農学博士) 橋床 泰之

 大型のヒトデ、それとも目玉焼き?

実は、ツチグリというキノコ。

 マツタケが生きたアカマツの根に共生して発生することは良く知られていますが、デリケートなためか、ちゃんと落ち葉掻きをして手入れしないと生えません。西日本のアカマツ林はマツ枯れ被害でどんどん消失しているので、国産マツタケの稀少性はさらに高くなりそうです。西日本のマツタケ山には高圧電流の流れた有刺鉄線が張ってあり、番人が棒を片手に巡回していると、まことしやかに囁かれています。有刺鉄線はシカやイノシシ除け、番人は持ち主の親爺、棒はマツタケを探す道具というのがどうも真相らしいのですが、それでも冷戦時代の東西国境線を見るような凄味があります。名人はマツタケのかすかな香りでキノコのありかを探し出し、頃合になるまで松葉を自然に振りかけて隠し、週末が始まる前に収穫してしまうと聞きます。

 日本でマツタケに次ぐ地位にあるのがホンシメジです。このキノコは、「陸の貝柱」とも形容されるほど強烈なうま味と歯触りを持っていますが、残念なことに、これも人工栽培ができないおかげでNo2の位地を確保しています。マイタケは見つけた者が踊り出すから舞茸との由来があるほど美味なのですが、幸いにも人工栽培が可能になったため誰でも楽しめるようになりました。ただ、野生のものは、栽培品にはおよびもつかない風味があるといわれています。

 また、その地方地方でマツタケにも劣らぬ扱いをうけるキノコがあります。北海道のラクヨウ、岩手のコウタケ、栃木のチチタケ、群馬と茨城のウラベニホテイシメジ、関西のショウゲンジなどで、フランスではトリュフ、北欧ではヤマドリタケなども古くから珍重されてきました。中国のシロキクラゲもかつてはその地位にあったらしいのですが、いまではどこでも安く買えます。面白いのは、日本では香りと歯ごたえ、欧州では濃厚な味、そして中国では絶妙な舌触りにそれぞれ重点を置くところです。それぞれ、民族の価値観が現われているではないでしょうか。

 それにしても、列記したうち、シロキクラゲとマイタケ以外のキノコすべてが人工栽培できない種類だという事実は、人間共通の欲求の根本にあるもの(独占欲?)を雄弁に語っているようです。