株式会社エコニクス
環境事業部 水域環境チーム 林田 健志
海、川の水中には、微小な植物プランクトンが無数に存在しています。主に珪藻や渦鞭毛藻などが代表として挙げられま す。顕微鏡を使わないとその姿、形さえも確認できないほど小さな彼らですが、地球にとっては非常に重要な存在です。そんな彼らの役割について、紹介したいと思います。
珪藻:Stauroneis sp. 渦鞭毛藻:Peridinium bipes,
引用 総合研究大学院大学HP 原生生物図鑑
植物プランクトンは太陽光と水中の栄養分(栄養塩)を用いて「光合成(一次生産)」を行い、有機物を生成して成長、増殖します。自然界において、植物プランクトンは動物プランクトンに食べられ、動物プランクトンは魚に食べられ、魚はより高次動物、人間などに食べられるため、植物プランクトンは食物連鎖の基礎生産者として必要不可欠な存在であるといえます。
また、光合成により二酸化炭素を吸収し、酸素を生成することも忘れてはいけません。近年、二酸化炭素増加による地球温暖化が問題になっていますが、海洋は大気中の二酸化炭素の大部分を吸収してくれています。これは、植物プランクトンが光合成により海洋表層の二酸化炭素濃度を下げていることで、大気から海への吸収量を大きくしていることが大きな要因だと言われています。
以上のことから、植物プランクトンは「食物連鎖の基礎生産者」、「二酸化炭素の調整者」の役割をもつ、地球の重要な貢献者なのです。
ここまで植物プランクトンの良い役割について紹介してきましたが、ときには植物プランクトンが悪い問題になることもあります。
湾などで赤潮が発生し、漁業などに大きな損害を与えていることはニュースなどでご存知だと思います。富栄養化により有害な植物プランクトンが表層で大量繁殖したり、その死骸の分解で溶存酸素が低くなったりした結果、魚などの海洋生物が大量死してしまいます。
こうした問題における、植物プランクトンの影響把握や対策のため、近年では数値計算モデルによる評価がされるようになりました。一般的に、このとき用いるモデルは「生態系モデル」と呼ばれ、植物プランクトン、動物プランクトン、栄養塩などの変数について、室内実験などから得られた関係式を用いて分布量、時間変化などを計算、評価します。観測ではカバーしきれない範囲も数値計算では評価が可能となることから、有効的な手法とされており、今後、計算精度の向上などが望まれています。
海洋が大気の二酸化炭素を吸収してくれていることは前述しましたが、それでも近年温暖化が問題になっているのは、人為的な二酸化炭素排出量が大きいため、自然界での海洋、陸生植物などの二酸化炭素吸収が間に合わないためです。富栄養化、赤潮の問題についても、主に河川、海への人為的な栄養塩流入が大きな要因になっており、どちらも私たちが招いたことではないでしょうか。前号のエコニュースでは動植物との付き合い方の重要性について触れましたが、私たちは海(植物プランクトンをはじめとする海洋生物)との付き合い方も早急に見直さなければいけません。
いよいよ今月開催される洞爺湖サミットでは、地球温暖化などの環境問題の抜本的な国際的対策が議論されることを望む限りです。