株式会社エコニクス
環境事業部 陸域環境チーム 伊藤 尚久
日本各地の河川には、農業用水を取水するための頭首工、河道を維持するための落差工、床固工、砂防ダムといった数多くの河川横断工作物が設置されています。そして北海道の多くの河川には、サケやサクラマスといった河川と海を回遊する魚類が数多く生息しています。
最近では、世間の河川環境に対する関心の高まりを反映して、多くの河川横断工作物に魚道が必然的に設置されるようになりました。ちなみに道内河川に設置されている魚道は、2006年の時点でわかっているだけでも2300基を超えています※1。また、道内における魚道設置の歴史は意外と古く、最も古いものは大正11年の石狩川の頭首工(深川市北空知、北海道開発局)であり、その後、大正11年~15年に5カ所、昭和2年~25年に3カ所、昭和33年~52年までに70力所の魚道が設置されています※2。
当初の魚道形式は、階段式(写真1)やアイスハーバー式(写真2)などのプールタイプが主流でしたが、近年では、魚類生態学と水理工学を融合した様々な研究成果が徐々に蓄積されるようになり、1990年以降はスリット式(写真3)や水路式(写真4)といった魚道が設置されるようになりました※1。
このように、各地の河川で魚道整備は着々と進められてきましたが、実際には必ずしも効果が発揮されているとは言えません。せっかく設置した魚道に水がまったく流れておらず、設計当初に期待していた機能をまったく果たせていないものも見受けられます(写真5)。また、設置した魚道の効果検証も十分とは言いきれません。
こうした状況下において、各河川管理者は、河川横断工作物に設置した魚道について、研究者やNPO等と協働し、順応的管理(アダプティブマネジメント)※3による改善を積極的に実践しつつあります。魚道設置の効果を把握するための一般的な調査(目視観察、水中ビデオ撮影、標識放流、魚道内トラップ設置等)をはじめ、最近ではハイテク機器によるバイオテレメトリー調査(魚類に装着した発信機からの信号を受信し、魚類の行動を把握する技術)の事例も増えています。また、既設魚道の持続的な機能維持を目的とした、市民による魚道点検も実施されています。
前述のような魚道の調査・点検を道内各河川で経験してきた私としては、得られたデータが有効活用され、魚類が無理なジャンプをすることなく、スムーズに河川内を移動できる魚道として改善されていくことを願っています。そのために今後も北海道の魚類のため日々研鑽していきたいと思います。
※1谷瀬 敦 他,北海道の魚道データベースの作成について,2006
※2矢部浩規 他,魚の生息環境に配慮した川づくり,1995
※3当初の予測がはずれる事態が起こり得ることを、あらかじめ管理システムに組み込み、常にモニタリングを行いながらその結果に合わせて対応を変えるフィードバック管理。特に野生生物や生態系の保護管理に用いられる。