ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2026.07.01
ECONEWS vol.397

湿度のはなし

空気が重い… それは、あなたのせいではありません。

株式会社エコニクス 電力環境部
生活環境チーム 中山 英雄

 天気のことわざで、「ねこが顔を洗うと雨が降る」というのがあります。猫が前足で顔を擦っている姿は、猫好きの方には堪らない癒しの光景です。本州では梅雨入りした現在、猫が顔を洗っている姿がたくさん見られているのではないでしょうか。湿度に敏感な猫のひげに、空気中の湿度が高まると微細な水滴が付着し、気になって顔を擦る回数が増える。などの説がありますが、科学的には裏付けされていないようです。的中率も、統計的な裏付けは乏しく、目安程度にしかなりません。一方、湿度に対する敏感さは人間も負けてはいません。人間の毛髪は湿度が変化すると伸縮し、湿度0%から100%に変化すると2~2.5%も伸びます。この性質を利用し、湿度を計測する装置「湿度計」が作られています。その名も「毛髪型湿度計」。1733年に発明された装置ですが、驚く事に、デジタルセンサー全盛の現在も、この方式の湿度計が多く売られ、日本産業規格(JIS)の中にも湿度計として定められています(JIS Z8806 湿度-測定方法)。髪の毛はデジタルセンサーにも負けない敏感さで反応しますが、残念ながら人間は自分自身の意識として、それを検知する事はできません。蒸し暑い日に、お風呂に入って頭を洗い流したくなるのは、毛髪センサーの働きに因るものでは無いでしょう。


 私の主な業務は、煙突から排出される排ガス中の有害物質を調べる事です。この調査過程で、排ガスの湿度を必ず測定します。これは、排ガスの密度を計算するためです。一般的に重油や灯油、ガスなどの燃料を燃やした際に発生する排ガスの主成分は、窒素、二酸化炭素、酸素、そして水分(水蒸気)となります。排ガスの比重はこの4つの成分のバランスで決定します。意外なことに、水分(水蒸気)が多いほど、排ガスの比重は小さくなるのです。この理由は、気体は同じ温度・同じ圧力の条件下では種類に関係なく、同じ数の分子を含むからです。そして、分子の数が決まれば、その重さが決定され、それは気体の種類ごとに異なります。例えば、0℃、1気圧(101,3kPa)下で1m3のそれぞれの気体の重さを比較すると、窒素 1.25kg、二酸化炭素 1.96kg、酸素 1.43kg、水分(水蒸気) 0.80kgとなります。水分(水蒸気)は他の成分に比べ、圧倒的に軽いです。従って、この軽い水分(水蒸気)の割合が多い排ガスは軽く、比重が小さくなります。ここで、後輩のK君から質問が上がりました。「ウチ(自宅)では床の方がロフトの部分より湿度が高くなっています。水分の方が重いから、下に沈んでくるのではないのですか?」
なるほど、しかし、違います。ここで、K君の質問に出てきた「湿度」は、前半に出てきた「毛髪湿度計」などで測定される「相対湿度」になります。空気中に水蒸気として溶け込める水分の量は限界があり、その限界値は気温により異なります。気温が高いほど、溶け込める水分量は多くなります。そして、溶け込める限界量に対して、実際に溶けている水分量の割合を示したものが「相対湿度」です。一般的に家の中では床部分より、天井部分の気温が高くなっている場合が多いため、同じ水分量が溶け込んでいる空気でも、温度が低い床では溶け込める限界の水分量が少なく、温度が高い天井付近では、逆に溶け込める限界量が多くなります。つまり、溶け込める限界量に対し、実際に溶けている割合が床の方が多くなるのです。従って、床の方の湿度(相対湿度)が高くなります。これに対し、排ガス調査で測定する湿度は「絶対湿度」と言います。これは単純に排ガスの体積に対する水蒸気の体積の割合で、ガス温度を変えても変化しません。

図:筆者作成
※ 上図で実際に溶け込んでいる水分量が赤破線の値(高さ)である場合、気温20℃
では相対湿度はほぼ100%となるが、気温50℃では約18%となる。

 K君の質問に見られたように、一般的に、「水は空気に比べて重たい。だから、それを多く含む空気は重くなる」と思われがちです。しかし、実際には絶対湿度が高いほど空気は軽いのです。ではなぜ、人は湿度が高い状態で「空気が重い」と感じるのでしょうか。人が肌で感じる湿度は「相対湿度」の方です。相対湿度は先ほど説明した通り、同じ水分量を含んでいても、気温が変わると変化します。気温が低いほど相対湿度は高くなりますので、「気温が低いと空気が重く感じる」という事になります。実際に気温が下がると空気は収縮して密度が高くなるのですが、気温が低い時に「空気が重い」という表現はあまり使いません。どちらかと言うと、気温が高く相対湿度も高い、「ムッとした空気」の時に使われます。このような状態では絶対湿度も高く、また、温度による膨張で密度は減少しています。あれ?やっぱり軽い!

 「ムッとした空気」の下では、空気に溶け込める水分量は限界近くとなっています。この状態ですと、肌からの水分蒸発が妨げられ、身体を冷却することが困難です。汗も乾かず肌に纏わりつきます。このような不快な状況を、ある人が「重い」と表現したのが始まりなのでしょう。日本以外ではこのような表現は無いようです。実際には重くない、「不快感を重いと表現した」が正しいようです。

 湿度は環境調査ではデータとしては補助的であり、重要な位置を占める事はあまりありません。しかし、この湿度をしっかりと理解していないと、主要項目の計算を間違えたり、誤った結論を導いてしまうリスクがあります。
一見地味に見える要素ですが、品質を左右する重要なポイントです。だからこそ私たちは、この「湿度」まで丁寧に押さえ、調査全体の精度と信頼性をしっかり支えます。
地味で大事な“湿度のはなし”、ここまで徹底することが、確かな結果につながります。