CO2吸収量という「数字」だけが、ブルーカーボンの価値でしょうか?
株式会社エコニクス 自然環境部
水産振興チーム 土門 萌美
最近、テレビのニュースではコンブをめぐる話題で、「生産量の大幅減少」「担い手不足」「生育不良」といったネガティブな言葉ばかりが並び、少し寂しさを感じます。さらに、道内各地での業務を担当し、その中で漁業者の方々の切実な声に直面するたび、その厳しさをリアルに感じています。
そんな厳しい現状を打開する可能性を秘めた一手として、いま民間企業や地方自治体から熱い視線を集めているのが「ブルーカーボン」です。昨今、耳にされる機会も増えているのではないでしょうか。CO2の吸収源となる藻類(海藻・海草)は、陸上の森林と比較して高いCO2吸収能力を持つとされ、1〜2年という極めて短い期間で急成長する「即効性」を有しています。さらに、枯死した藻類が海底に堆積することなどにより、数百〜数千年規模にわたってCO2が長期貯留されるため(これがブルーカーボン)、極めて持続性の高い炭素吸収源である点が特徴です。
これはブルーカーボンの価値の一つと言えますが、真の価値は単にその現存量やCO2排出量の「埋め合わせ(オフセット)」に使えることだけに留まりません。例えば、クレジット化によって持続可能な活動資金を獲得することは、資金・人手不足の打破に直結します。さらに、藻場再生で豊かな生態系を取り戻すことによる「水産資源の回復や新産業の創出」、企業や地域の子どもたちを巻き込んだ「協働体制の構築」等々、地域社会へ多大な恩恵をもたらしてくれます。
しかし、藻場を再生してクレジットの認証申請をしたいと思っても、立ち上がり時に資金や人手がすでに不足し、今後を見据えたときには「持続可能性の壁」に阻まれ、せっかく取り組んだ活動も単発で終わってしまうことが起こり得ます。Jブルークレジット®のガイドライン(手引きVer.2.5)では、「クレジットの取得が、活動の維持や拡大(追加性)に直結すること」を厳格に求めています。つまり、真に持続可能なプロジェクトと認められるためには、あらかじめ明確な「将来設計」を描いておくことが極めて重要と言えます。

申請対象となるプロジェクトの要件
(Jブルークレジット®認証申請の手引き(Ver.2.5)より抜粋)
北海道を拠点とする環境コンサルタントの当社において、私自身も藻場再生の業務や行政のガイドライン作成などに携わってきましたが、ブルーカーボンに関するプロジェクトを成功に導くには、クレジット認証のために「信頼性の高い正確なデータを示す技術力」と、地域や企業を巻き込む「ストーリーづくり」の両輪が不可欠であると実感しています。測定したデータが信頼できるものであることはもちろんのこと、単に申請のためだけに使うのではなく、地域ごとに異なる課題の解決に活かすことが重要だと思います。そして、そのストーリーは一つの組織で抱え込まず、企業や住民、専門家が手を取り合う『共創』の形こそが、息長く続ける原動力になると私たちは考えます。
例えば、藻場再生活動の一環として、密度管理のために駆除したウニを蓄養してブランド化する「積丹方式」のように活動資金を循環させるストーリーは有名ですが、環境学習を通じた関係人口の創出や、環境省「自然共生サイト」の認定活用などストーリーづくりのアプローチは様々あり、地域が豊かになる好循環を皆さんと一緒に描いていけたらと思います。

ブルーカーボンが持つ「価値」のイメージ
豊かな海を取り戻すためには、現場での地道な努力、科学的な裏付け、そして何より「この海を良くしたい」という地域の皆さんの想いを一つにする“現実的な設計図”が必要です。私たちは、北海道の海の未来を共に創り上げるデザインパートナーでありたいと考えています。「うちの海でもブルーカーボンに取り組めるだろうか?」「どうすれば活動を維持する仕組みが作れるだろうか?」そんな、ちょっとした疑問や想いからで構いません。まずは、皆さんの海のお話をざっくばらんにお聞かせください。
【参考文献】
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合.(2026)Jブルークレジット®認証申請の手引き(Ver.2.5).
一般社団法人大日本水産会魚食普及推進センター.カーボンあれこれ。ブルーカーボン、グリーンカーボン.https://osakana.suisankai.or.jp/s-eco/5651
水産庁.(2021)第3版 磯焼け対策ガイドライン.
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合.(2023) プロジェクト登録申請書:循環型藻場造成「積丹方式」によるウニ増殖サイクルとブルーカーボン創出プロジェクト.

