電力環境部 火力発電所担当チーム
齊藤 一
洋上風力通信Vol.21では洋上風力の施設自体が魚礁となり、施設周辺に蝟集が期待される底生性魚類の中からカレイ類のマガレイを紹介させて頂きました。今回も、同じくカレイ類の中からヌマガレイについて紹介させて頂きます。
標準和名はヌマガレイですが、カワガレイという名でも親しまれています。沿岸域に生息していますが、汽水域や沿岸の湖沼、時には淡水域の河川の中流域でも見られることがあるためにこの名称がついています。※1,2,3
カレイ類は異体類とも呼ばれ、基本的に眼が右(腹を下にすると右向き)になる扁平な魚ですが、カレイ類の中ではこのヌマガレイだけが例外で眼が左になり、他のカレイ類とは逆向きになります。このため、生息場所やその体形から「カレイ界の異端児」と呼ぶ人もいます。
同じく左向きの異体類には人気の高いヒラメがいますが、ヌマガレイは鮮度が落ちやすく、水っぽく特有の臭みがあるために、食用としての利用はあまりされていません。
そもそも、ヌマガレイは河川周辺にいるカレイ類なので、洋上風力発電施設とは関連性がないのではないのか?と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、彼らは河川や湖沼以外にマガレイと同じく沿岸性のカレイ類です。水深30~50mの沿岸域にも生息しています。産卵期には河川や湖沼から海に向かって1日平均5~6㎞の速度で移動しますので、関連がないとも言い切れないのです。※6
ヌマガレイは雌で3歳、雄で2歳から性成熟します。寿命に関する知見はありませんが、雌魚で6歳の記録があります。
弊社実体顕微鏡で撮影した飼育中の稚魚(体長9㎜)
北海道(石狩湾)の産卵盛期は2~3月で、水深20mより浅い河口域や沼の近くで産卵します。卵は半透明の淡い桃色で、卵径は0.97~1.01㎜前後の分離浮性卵(1個1個の卵がバラバラになって水中を漂う卵)です。※1,5
孵化には水温2.0~5.4℃で、約15日かかります。孵化直後の全長は2.6~3.7㎜、全長4.5㎜(孵化後16日)で卵黄のほとんどを吸収し、体長7.3㎜を超える頃に変態(右眼が移動、体高の増加)が始まります。体長が8㎜前後になると移動中の右眼が頭部背正中線上に達するため、ヌマガレイであることが明らかになります。変態後の稚魚は沿岸の河口域や干潟に着底し、底生生物等を捕食して成長します。※4,5,6
カレイ科ですが、両眼は体の左側にあり、体の背腹両縁で、背鰭と臀鰭の部分に沿って小棘のある小骨板が1列に並びます。背鰭、臀鰭、尾鰭に黒色の帯状の斑紋があります。
雌は体長約30㎝、雄は約20㎝で成熟し、1~3月頃に水深20m以浅の河口域や沼で産卵します。主に甲殻類、ゴカイ類、魚類などを食べ、底刺し網、定置網、釣り等で混獲されます。※1,2
分布は北海道以南で、日本海側では島根県中海まで、太平洋側では神奈川県三崎まで、並びに朝鮮半島~沿海州、サハリン、カムチャッカ、アリューシャン列島、アラスカ半島を経て、カリフォルニア沿岸に分布します。※1,2
ヌマガレイ成魚
このヌマガレイはまだまだ知られていない謎の部分が多いため、生息環境やその生態について調べる必要があります。
弊社では長年培った海生生物分析技術以外にも、魚礁調査、漁獲調査のほか、底質調査や流況調査などの環境調査に関する実績があります。海に関わる事柄で気になることや、お困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
参考資料
※1 日本産ヒラメ・カレイ類 尼岡邦夫著 東海大学出版部
※2 尼岡ら (2020) 北海道の魚類 全種図鑑. 北海道新聞社
※3 日本産魚類検索全種の同定 第三版 東海大学出版部
※4 日本産稚魚図鑑 第二版 東海大学出版部
※5 新 北のさかなたち 北海道新聞社
※6 主要対象生物の発育段階の生態的知見の収集・整理 報告
社団法人 全国豊かな海づくり推進協会
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