ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2025.02.01
ECONEWS vol.380

ウニ養殖と餌

ウニの需要が増え、供給量の増加と安定が期待できるウニ養殖に注目が集まっています。

株式会社エコニクス 自然環境部
海域担当チーム 田村 勝

 漁業・養殖業生産統計1)によれば、全国のウニ生産量はピーク時の1969年は27,500トン(殻付き)あったのが2022年は6,500トンまで減少し、近年は価格の高騰が続いています。国内需要に加えて、近年消費が拡大している海外への輸出需要が増加していることから、供給量の増加と安定が期待できるウニ養殖に注目が集まっています。
 北海道でのウニ養殖は、浜中町の散布漁協が1992年から取り組みはじめ、円筒篭を使ったエゾバフンウニの養殖を確立しました。その後事業化に成功し、2022年は浜中町の2漁協(散布、浜中)で養殖生産額は4億円を超えるまでに成長しています2)。近年、円筒篭を使った海面養殖は道内各地に広がりを見せています。陸上養殖については、北海道が「新たな養殖業推進事業」の一環で厚岸町をモデル地区として実証試験をすすめています。
 養殖をおこなう際の課題のひとつに、餌の確保があげられます。ウニは一般的にコンブなどの海藻を食べると考えられていますが、実は雑食性で、海藻がなければ何でも食べます。ウニの餌はコンブを調達できるのがベストですが、量が不足していたり、周年安定して調達できないことも多く、コンブ以外の餌についても古くから知見が残されています。積丹町のウニ種苗生産施設では、1980年代にすでに、海藻の確保が難しい冬場の餌として、イタドリの葉が使われていました。その後も、魚肉3)、海藻4)5)6)、野菜7)などがウニの餌として研究されてきました。一方で、餌料効果の高いウニ用配合餌料も実用化されています8)

写真1 キタムラサキウニと餌のコンブ

 ウニの味は食べた餌によって変わるといわれています。また、ウニの味はウニの持つエキス成分により、基本はグリシン・アラニン(甘味)、バリン(苦味)、グルタミン酸(旨味)、メチオニン(ウニ独特の味に不可欠)のアミノ酸やグリコーゲンによって決まるといわれています。ちなみに、もしもメチオニンが入っていなかったらウニの味ではなくカニに似た味になってしまうそうです9)

図1 アミノ酸とウニの味(味の素株式会社ホームページより引用)

 これまでの研究で、魚肉だけを給餌したウニは身入りの増加が顕著に現れるもののバリンが増加することによって苦味が増すことが分かっています3)。雑海藻では、湯通し乾燥したスジメを給餌すると身入りの増加に優れるものの苦味も増すことが分かり、生鮮海藻よりも加工海藻(湯通し、乾燥など)を給餌したウニで苦味が生じるのは、海藻の旨味・甘味アミノ酸が海水中に融け出しやすく苦味アミノ酸が残るためとされています6)。神奈川県水産技術センターによるキャベツを給餌したムラサキウニは「キャベツウニ」と呼ばれ、バリンがきわめて少なく苦みをほとんど感じない特徴があり、「海藻由来の磯臭さがなく、ウニが苦手でも食べられる」のだそうです。これを参考にして北海道でもキャベツ、白菜を給餌したキタムラサキウニがつくられていますが、アンケートでは「苦味がなく甘味があって美味しい」という反面、「ウニ本来の旨味に欠ける」という意見もあったようです。ちなみに、私はキタムラサキウニの天然ウニと野菜を給餌したウニの両方を食べたことがありますが、どちらもとても美味しいと感じました。ワインであればフルボディとライトボディがあるように、消費者が味の好みに合わせて選べるようにすればいいと思いました。
 このほかにも、神奈川県ではムラサキウニに柑橘類(湘南ゴールド)を10)、山口県ではムラサキウニにトマトを11)、北海道ではキタムラサキウニにアスパラガスを給餌した事例12)があります。さらには、キタムラサキウニにマメ科植物のクローバーを給餌して肥育したユニークな事例13)もあります。このように、餌の確保が課題となっているウニ養殖はそれぞれの地域の実状に合わせた養殖方法を確立することが重要と考えます。


参考資料
1) 漁業・養殖業生産統計
2) 浜中町の水産概況
3) 干川裕・高橋和寛・杉本卓・辻浩二・信太茂春(1998) キタムラサキウニ養殖における生殖巣の質に及ぼす魚肉給餌の影響. 北水試研報, 52, 17-24.
4) 名畑進一・干川裕・酒井勇一・船岡輝幸・大堀忠志・今村琢磨(1999) キタムラサキウニに対する数種海藻の餌料価値. 北水試研報, 54, 33-40.
5) 町口裕二・高島国男・林浩之・北村等(2012) エゾバフンウニの生殖巣の発達に及ぼす北海道東部海域に産する海藻(草)と給餌期間の影響. 水産増殖, 60(3), 323-331.
6) 高橋和寛・中島幹二・菅原玲(2019) 雑海藻を原料としたウニ養殖用餌料の開発と利用. 北水試だより, 98, 11-14.
7) 臼井一茂・田村怜子・原日出夫(2018) 野菜残渣を餌としたムラサキウニ養殖について. 神奈川県水産技術センター研究報告, 9, 9-15.
8) 北三陸ファクトリーホームページ
9) 味の素株式会社ホームページ
10) https://www.zennoh.or.jp/kn/topics/2018/70344.html
11) https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/90079
12) https://www.nippon.com/ja/news/kd1198748997145395346/
13) 公立大学法人宮城大学ホームページ