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2024.12.25
藻場通信 vol.48

今年のコンブの採苗が終わります

自然環境部 海域担当チーム
田村 勝

 前号ではコンブのタネについて紹介しました。コンブ母藻からタネを採取する作業を「採苗」といい、弊社が実施している藻場造成試験における今年分の採苗は終盤を迎えております。

 昨年の今頃は、道南のコンブ産地において採苗時期の遅れ(タネが出ない、量が少ない)1)が取りざたされ、高水温の影響が疑われました。地元漁業者への聞き取りによると、今年は昨年ほど採苗時期が遅れることはほとんどなかったようです。

 余市前浜水温情報2)によれば、高水温だった2023年は6月中旬~10月上旬のすべての旬で平年より2℃以上高い状況が4ヶ月に渡って続きました。しかし、2024年の同じ時期の水温は2023年よりも0.2~2.5℃低く、2023年ほどの高水温ではなかったことがうかがえます。

 記事1)によれば、水産試験場が函館市内のある漁協で採苗時期を調べた結果、2010年以降から年々遅くなっており、いったん改善したものの、近年再び遅くなる傾向に転じ、2023年が最も遅かったようです。また、6~7月の水温とは相関がなく、子嚢斑(写真1を参照)が形成される8月の水温が高い場合、採苗が遅れる傾向にあるとのことです。子嚢斑はコンブのタネがつくられる組織のことですが、高水温がその形成に影響した可能性が考えられています。

 ちなみに、採苗時期が遅れた場合、その後のコンブの胞子体(写真2を参照)の発生が遅れることが考えられますが、胞子体の発生時期と成長に関する既往報告をご紹介します。阿部ら3)によると、忍路湾において岩面を剥離した造成面でのホソメコンブ胞子体の発生を調べた結果、最大葉長は11、12月に造成した箇所で大きい傾向がみられました。これは着生した時期の水温が好適で栄養塩も豊富な時期であり、さらには競合海藻も少なかったため、胞子体が早い時期に発生して成長も良好であった可能性が考えられています。

 そして、1月以降に造成した箇所に発生した胞子体の最大葉長は小さい傾向にありました。これは、発生時期としては遅く、しかも高水温で栄養塩が減少する時期に入っていたことに起因すると考えられています。

写真1 マコンブの子嚢斑

写真2 発生してまもないマコンブの胞子体

参考資料
1) 週刊水産新聞, 2023年12月4日, 第1254号
2) 沿岸定置水温情報(余市前浜水温情報)
https://www.hro.or.jp/fisheries/research/central/section/kankyou/suion.html
3)阿部英治・松山恵二・辻寧昭(1982) 忍路湾におけるホソメコンブの群落形成. 北水試報, 24, 41-50.


コンブ、採苗、胞子体、子嚢斑、栄養塩、競合

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