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2025.01.25
藻場通信 vol.48

君はどこから来た?~海藻の将来を見据えて~

自然環境部 海域担当チーム
北浦 愛望

 海岸を歩いてみると、さまざまな海藻が岸辺に漂着している様子が確認できます。私にとって、そうした海藻たちは大変興味深く、いろいろ探索しているうちにいつの間にか数時間経過していることが度々あります。なぜなら、時々めずらしい海藻が岸辺に漂着している場合があるからです。

 昨年の7月には、志海苔海岸(函館市)において暖海性の海藻であるツルアラメの漂着が報告されました。ツルアラメ(写真1)とは、青森~九州沿岸部に分布するコンブ目コンブ科カジメ属に分類される海藻です。津軽暖流の潮流(図1)を考慮すると、漂着が確認された個体については、本種分布域として志海苔海岸から最短距離に位置する下北半島の大間海岸由来である可能性は低く、本州の日本海沿岸由来である可能性が高いとのことでした。

 今まで北海道沿岸にツルアラメの生育記録がないのは、漂着しても環境が適さずに定着できないためと考えられていました。しかし、近年の海水温上昇により、北方に分布域を拡大させている可能性があるようです。

写真1.ツルアラメ
(如澤ら『函館市志海苔海岸に漂着した褐藻ツルアラメ』
藻類, 72巻3号, pp.183-184 より引用)

 さらには、暖海性の貝類であるハネマツカゼの北海道漂着や、レイシガイの生息域拡大も報告されています。これらについても、海水温上昇・温暖化の影響により、そのまま定着して分布域を北方に拡大させ、在来生物に対して悪影響を及ぼす可能性が危惧されています。

 近年、海岸に漂着する生物の種類は変化しており、めずらしい生物が確認されることは、個人的には大変興味深いことですが、こうした現象は本来の分布域の変化を示唆していることになり、北海道の主要産業である水産業に多大な影響を及ぼすことにもなることから、ちょっと複雑な気分です…

図1. 北海道を取り囲む海
(海上保安庁「北海道周辺海流図」に加筆して作成)

参考資料
1)如澤侑汰・川越力・秋田晋吾.「函館市志海苔海岸に漂着した褐藻ツルアラメ」.藻類, 2024, 72巻3号, pp.183-184.
2) 海上保安庁.「北海道周辺の海流」. 海上保安庁HP.<https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN1/soudan/kairyu.html>, 2025年1月22日閲覧.
3)圓谷昂史・鈴木明彦.「北海道古潭海岸における暖流系穿孔性二枚貝ハネマツカゼの漂着」. 漂着物学会誌, 2020, 18巻, pp.35-36.
4)圓谷昂史・鈴木明彦.「北海道苫小牧沿岸への暖流系岩礁性巻貝レイシガイの漂着」. 漂着物学会誌, 2013, 11巻, pp.29-30.

暖海性、ツルアラメ、ハネマツカゼ、レイシガイ、志海苔海岸、海水温上昇、生息分布域

藻場通信_Vol49