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エコニクスからの情報発信
2024.10.01
ECONEWS vol.376

日本の漁業の行く末は…?

近年、世界の漁業生産量が増加傾向にある中で、日本の漁業は低迷状態にあります。
日本の水産業の課題について整理してみました。

株式会社エコニクス 自然環境部
海域担当チーム 伊藤 尚久

 2024年6月、国連食糧農業機関(FAO)がコスタリカで開催された海洋保全に関する専門家会議で公表した「世界漁業・養殖業白書」によると、2022年の漁業生産量(藻類除く)は1億8,540万トンと過去最高を更新し、2年前に比べて4.5%増加していました(図-1参照)。そして、漁獲漁業の生産量が9,100万トン(1.3%増)だったのに対し、養殖業の生産量は9,440万トン(7.6%増)となっており、2022年は養殖業が漁獲漁業を上回った初めての年となりました。

 漁獲漁業の生産量は、1990年代からほぼ横ばい状態(9,000万トン前後)で推移しており、乱獲や気候変動等の影響を受けて漁獲の伸びがあまり期待できない状況にあると考えられます。

 一方、養殖業の生産量は、1990年代(平均2,180万トン)から四半世紀で4倍以上増加しています。国別生産量は、中国が5,288万トンでトップ、次いでインドが1,023万トンであり、アジア諸国で合計8,340万トンと全体の9割近くを占めています。アジアの新興国や途上国を中心に、増加する食料需要を満たすため、養殖業が拡大傾向にあることが分かります。

図-1 世界の漁業生産量(藻類除く)の推移
引用元:世界漁業・養殖業白書(一部加筆)

 一方、日本の漁業生産量の推移は図-2に示したとおりです。

 戦後、日本の漁業は「沿岸→沖合→遠洋」へと漁場を拡大することで発展しました。200海里時代の到来で遠洋漁業の撤退が相次ぎましたが、マイワシの漁獲量の急激な増加によって1984年には生産量がピークに達しました。その後、マイワシの漁獲量の減少等で1995年頃まで急速に減少した後、漁業就業者や漁船の減少等に伴う生産体制の脆弱化、さらには海洋環境の変化や水産資源の減少等により、緩やかな減少傾向が続いています。

 ちなみに、2022年の生産量は前年から24万トン減少して392万トン、最新データ(令和5年漁業・養殖業生産統計:農林水産省)によると2023年はさらに減少して372万4,300トンとなっており、ピーク時の3割程度となっています。世界の漁業生産量が増加傾向にある中で、日本の漁業は対照的な状況にあるといえます。

図-2 日本の漁業・養殖業の生産量の推移
引用元:令和5年度 水産白書

 近年、日本近海における漁獲量が減少傾向にある要因については、以下が考えられています。

・排他的経済水域(EEZ)が策定されたことで、自由に漁業操業ができるエリアが狭くなった。
・温暖化によって日本近海の海水温が上昇(1923年→2023年で+1.28℃:気象庁)したため、海流の経路が変化し、魚介類の生息域も変化した。
・日本近海における各国(中国、インドネシア等)の漁獲量が増加しており、競合が激化した。

 こうした状況下で日本の漁業が抱えている大きな問題としては、「大漁文化の弊害」、「個人経営体の平均年収の低下」、「従事者数の減少」等が挙げられます。これらを解決していくためには「資源管理を徹底する」、「漁業を稼げる産業にする」、「漁業対象種を転換する」、「養殖業へ移行する」といった対応が必要だと思います。

 日本の漁業問題に関しては、比較対象として漁業先進国である北米、北欧、オセアニア諸国の対策事例が各メディアで紹介されています。特にノルウェーについては、漁業管理手法として総漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)の設定、個別漁獲割当(IQ:Individual Quota)の導入をいち早く行うことで持続的な大量漁獲を可能にしている他、大手水産企業による最先端技術を活用した大規模サーモン養殖事業を確立している事実などから、世界的な優良事例として位置づけられています。

 こうした先進事例を踏まえ、日本政府は国内の様々な漁業問題に対処するため、2019年に70年ぶりとなる漁業法等の大改正を行い、翌2020年に施行されました。その主なポイントは以下のとおりです。

・魚と漁業従事者の収入を増やすため、水産資源の管理を強化
・戦略的に輸出を拡大
・新たな養殖事業や風力発電等、沿岸域を上手に活用
・漁協制度の見直し
・漁村の活性化、国境監視機能など多面的機能の発揮

 日本の漁業は、漁村や漁港によって規模・魚種・漁法が異なっているため、ノルウェーのように国が一律の政策をふりかざすことは非常に困難です。上記の改正漁業法に基づき、漁業に従事している方々が自ら禁漁期間、網目のサイズ等について協議し、自主規制しながら各々の漁場を保全していく「ボトムアップ的な日本独自の管理システム」を確立させつつ、新規事業(養殖等)を積極的に受け入れる体制を構築していくことが重要と考えます。

 地域密着型の藻場再生コンサルティングに従事している弊社といたしましても、課題解決に向けて積極的に取り組んでいる漁業関係者の一助になれるよう、今後も技術の研鑽に努めていきたいと思います。


<参考資料>
“世界のアグリフード 世界の漁業生産は過去最高の1億8540万トン 養殖が初めて漁獲を上回る”
https://note.com/mapio991/n/n80a5edb80440

“令和5年度 水産白書”
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r05_h/trend/1/t1_2_1.html

“令和5年漁業・養殖業生産統計”農林水産省大臣官房統計部 令和6年5月31日公表
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/pdf/gyogyou_seisan_23.pdf

“食卓が変わる? 70年ぶり、新たな漁業法が施行へ”日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66620860V21C20A1QM8000

“日本を海洋大国にするための第二歩:ノルウェー・アイスランドの水産現場から、日本の漁業資源管理制度について再考する”松下政経塾 第42期生 松田彩
https://www.mskj.or.jp/thesis/8723.html