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エコニクスからの情報発信
2018.11.01
ECONEWS vol.305

「シギチ」と呼ばれる鳥たちの生き方

株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当 米田 豊

 

 チドリ科の鳥は全長16~40cmの小型から中型の鳥で、頭と眼が大きく、頑丈そうなくちばしを持っています(写真1)。大きな眼を活かして、砂泥地などで昆虫、ミミズ類、甲殻類などの餌を見つけ、高速で駆け寄ってはくちばしで餌をつまみ、また餌を見つけるために別の方向に駆け出す動作をくり返します。このような、あっちへ行ったと思えば急にこっちへ行くといった、チドリ科の鳥と足取りが似ていることから、お酒に酔った人がフラフラと歩く様を「千鳥足」と呼ぶようです。

 


写真1 ダイゼンPluvialis squatarola(チドリ目チドリ科) 著者撮影

 

 シギ科の鳥には、全長15cmのトウネン(写真2)のようにスズメ大の小さなものから、全長65cmのホウロクシギなどの大きなものまでがいます。また、くちばしが短いものから長いもの、その形状がまっすぐなものや上または下に反ったもの、へら状のものまでおり、同じ科の中に多様な形態の種が存在しています。

 このように、シギ科の鳥たちの身体は種ごとに様々な形態に分化しており、それぞれの種が、体形やくちばしの長さ・形を活かした方法で餌(主に底生動物)を食べています。各種の形態に応じた採餌方法の違いは、多様な水辺の環境を利用するためであったり、同所的な餌資源の競合を避けるメリットがあるためと考えられます。

 


写真2 トウネンCalidris ruficollis(チドリ目シギ科) 著者撮影

 

 これら「シギチ」の多くの種が、春から夏にかけて北極圏を含む北半球の高緯度地域で繁殖し、秋には海を越えて南に向かい、低緯度地域または南半球で越冬し、そして春には北半球の繁殖地に帰る、数千キロから1万数千キロにもおよぶとても長い距離の渡りをします。

 なぜ「シギチ」は、捕食者からの攻撃、または、荒天・疲労などによる落鳥のリスクを冒してまで、長距離の渡りをするのでしょうか。それは、繁殖期には「シギチ」が産卵や子育てをするため、餌資源量が多く、営巣に適した土地が広がる北半球の繁殖地で過ごす必要があり、その一方で、この繁殖地では冬には餌が採りづらくなるため、暖かく餌を得やすい南方の地域まで移動して越冬する必要があるからです。

 そして、日本などの中緯度地域では、渡りの途中で、内湾や河口の干潟、沼沢地や湖沼の岸辺、水田などに、「シギチ」が訪れます。長く、過酷な旅をする「シギチ」にとって、休息や栄養補給のために立ち寄る干潟や湿地は、渡りの中継地としてとても重要な場所となります。

 ちなみに、環境省自然環境局生物多様性センターが公開している「鳥類アトラスWEB版(鳥類標識調査 回収記録データ)」では、鳥の渡りの記録をGoogle Earthで見ることができ、これらの鳥たちの長い旅を地図上で実感することができます。

 

 このような長距離の渡りをする「シギチ」は、生態系の重要な役割を広域的に果たしています。干潟や湿地の生態系において、上位捕食者であり個体数が多い「シギチ」は、大量の有機物を系外に運び去る物質循環の重要な役割を担っていると考えられるからです。例えば、渡り鳥の移動経路の一つである東アジア-オーストラリア地域フライウェイでは、繁殖地であるアラスカやロシアから、中継地である東アジアや越冬地であるオーストラリアにかけて点在する干潟や湿地が、渡り鳥を通じて一つの生態学的ユニットとして繋がっていると考えられています。これは、日本を含む東アジアの干潟や湿地が消失すると、「シギチ」の個体数を減少させ、そして、遠く離れたアラスカやオーストラリアの生態系にまで影響を与える可能性があることを意味します。その逆に、繁殖地や越冬地の環境が悪化すると、中継地の生態系にも悪影響を及ぼす可能性があると言えます。

 ところが、干潟や湿地は人間活動の影響を受けやすく、近年、埋め立てや干拓などの開発、化学物質や過剰な栄養塩の流入による水質・底質の悪化などが進行しています。このため、干潟や湿地の面積減少や環境の悪化に伴い、「シギチ」の個体数が激減していると推定されています。

 したがって、干潟や湿地の保全や再生・創出は、この小さな旅人である「シギチ」の保護のために極めて重要であり、そして、「シギチ」を保護することが遠く離れた地域の生態系の保全にも繋がることになるのです。

 

 

<参考資料>

天野一葉(2006)干潟を利用する渡り鳥の現状.地球環境 Vol.11.国際環境研究協会.
桑江朝比呂・三好英一(2012)鳥類の食性探求による干潟生態系の保全と再生.港湾空港技術研究所報告 第51巻 第3号.
中村登流・中村雅彦(1995)原色日本野鳥生態図鑑〈水鳥編〉.保育社.
日本鳥学会(2012)日本鳥類目録 改訂第7版.
樋口広芳(2005)鳥たちの旅 渡り鳥の衛星追跡.NHKブックス.
日高敏隆 監修(1996)日本動物大百科 第3巻 鳥類Ⅰ.平凡社.