化学分析は環境保全において欠かせない役割を果たしています。今回は化学分析を支える公定法とその代表的なものの1つであるJIS K 0102について紹介します。
株式会社エコニクス 電力環境部
生活環境担当チーム 本間 義規
現代社会において環境保全はますます重要な課題となっています。私たちの生活環境を守るためには、さまざまな方法で環境の状態を正確に把握し、適切な対策を講じることが必要です。その中でも化学分析は環境保全において欠かせない役割を果たしています。
化学分析は対象試料の化学的性質や成分を調べるための技術です。環境保全の分野では、水質、大気、土壌などの環境媒体に含まれる有害物質や汚染物質を検出し、その濃度を測定することによって環境の現状を把握し適切な対策を講じることが可能となります。
対象試料の化学的性質や成分を調べる際に、試薬の種類や入れる量、そして使用する分析機器によっても測定結果が異なるため、公定法を用いて測定する必要があります。
公定法とは政府や団体が定めた標準的な化学分析の方法のことです。これらの方法は信頼性が高く、再現性のある結果を得るために規定されています。公定法に基づく分析は法的な基準や規制を満たしていることを確認するために必要不可欠であり、環境保全においてもその重要性は非常に高いものとなっています。
環境保全のための化学分析において、公定法は以下のような役割を果たします。
1.信頼性の確保
公定法に基づく分析は信頼性の高いデータを提供します。これにより環境の現状を正確に把握し、科学的根拠に基づいた対策を講じることが可能となります。
2.法的基準の遵守
多くの国では環境保全に関する基準が定められており、公定法に基づく分析結果がその基準を満たしているかどうかを確認するために用いられます。これにより、企業や自治体は法的な責任を果たすことができます。
実際に分析方法として採用されるケースが多い公定法の1つに「JIS K 0102工場排水試験方法」(以下、JIS K 0102)があります。JIS K 0102は環境基準や排水基準、土壌や廃棄物関連の規制など環境分野の多くの告示・法令等に引用されています。
このようにJIS K 0102は環境保全において非常に重要なものとなっていますが、いくつか課題も抱えていました。
JIS K 0102は時代とともに内容が改訂されてきましたが、技術の進歩や環境問題の多様化に伴い、掲載されている分析方法が非常に膨大かつ複雑になっていました。そのため技術の進歩が早い現代において技術動向に合わせてタイムリーに改訂することが煩雑になってしまい、一方で利用者にとっても必要な情報を迅速に見つけ出すことが難しい状況となっていました。
また、JIS K 0102の記載内容は「JIS K 0101 工業用水試験方法」(以下、JIS K 0101)と重複する部分が多く、このことも改訂が煩雑になる要因となっていました。
これらの問題を解決し、必要な情報をより迅速に取得できるようにするために、JIS K 0102とJIS K 0101を統合して新たに「JIS K 0102規格群 工業用水・工場排水試験方法」として第1部~第5部に再編されることになりました。
統合・再編に向けた取り組みは原案作成団体である一般社団法人産業環境管理協会の主導のもと進められ、2021年の第1部の公示から始まり、今年ついに第5部が公示され完了しました。
・JIS K 0102-1 第1部:一般理化学試験方法(2021年5月20日公示)
・JIS K 0102-2 第2部:陰イオン類、アンモニウムイオン、有機体窒素、全窒素及び全りん(2022年10月20日公示)
・JIS K 0102-3 第3部:金属(2022年10月20日公示)
・JIS K 0102-4 第4部:有機物(2024年7月22日公示)
・JIS K 0102-5 第5部:生物及び生物学的影響(2024年10月21日公示)
近年では有機フッ素化合物(PFAS)など新たな汚染物質の出現や分析装置の技術進歩に伴い、今後も公定法の改訂が必要となる場合があります。技術の進歩とともに公定法の改訂や新たな分析方法の開発が進むことで、より効果的な環境保全が実現されることが期待されます。
信頼性の高いデータを提供し、法的な基準を遵守するために公定法に基づく化学分析は重要な役割を果たしています。
弊社は各公定法に基づいた化学分析、環境測定サービスを提供しています。正確で信頼性の高いデータを提供することで、お客様の環境保全活動などをサポートします。お気軽にお問い合わせください。
<参考>
一般社団法人産業環境管理協会
「JIS K 0102規格群:工業用水・工場排水試験方法 (第1部~第5部) 制定に向けた動き」
https://www.jemai.or.jp/standard/jisk0102.html