北海道立水産孵化場
養殖技術部 寺西 哲夫
7月から8月にかけて岩の間で生まれた稚魚は川の中へと移動し生活を始めます。生まれて1年位の幼魚の時は川の昆虫を、3年位で体長30cmを越えると魚などの餌を取るようになります。川では主にカジカやドジョウを食べています。イトウは魚を食べるようになってから、夜行性になるといわれ、さらには海にも行くことがあって、沿岸の定置網に入ることもあるらしいのです。イトウの体長は最高で2mほどになるとされ、寿命は10年以上、時には20年ともいわれます。シロサケが3年から5年ですから長寿といえましょう。
シロサケは一生に一回の産卵ですが、イトウは繰り返して産卵します。イトウの雌は満6年で卵を、雄は満4年で精子を完成させます。イトウの産卵はちょっと面白いのです。一般にサケ科の魚は秋から冬にかけて産卵しますが、同じサケ科に属するイトウは春に産卵するという特徴を持っています。イトウの卵や精子がいつからできるのかを観察すると、卵と精子ともに秋には充分に完成した状態、これを成熟と呼びますが、成熟状態になっているのです(図1,2、高い値ほど成熟が進んでいる事を示しています)。
図1 雌の月別成熟状態を表すグラフ(高い値ほど成熟が進んでいることを示している)
図2 雄の月別成熟状態を表すグラフ(高い値ほど成熟が進んでいることを示している)
この時期に成熟に必要な刺激の一つであるホルモンを注射すると、人工的に卵や精子を得られることがわかりました。では、なぜ春に産卵するのでしょうか。魚が産卵するには先のホルモンを分泌するための刺激となる水温の上下変動や1日の昼の長さ(日長)の長短が必要です。そこで、秋に春の環境、つまり水温を上昇させたり日長を長くしましたが、どうやってもイトウから成熟した卵を得ることはできませんでした。これは、秋に人工の春のような環境を作っても、体の内部にその刺激が伝わっていないことを示しているようです。
結局、春に産卵する理由は分かりませんでしたが、イトウはサケ科の中でも原始的で最も古いグループに属しているので、春に産卵するという習性をかたくなに変えないような長い長い歴史を持っているのかもしれません。
次はイトウの利用価値についてです。