地域環境に根差した獣害対策
株式会社エコニクス 自然環境部
陸域担当チーム 中筬 貴久
年々深刻化する、エゾシカやヒグマによる獣害。令和6年度の北海道の調査では、エゾシカによる農業被害額だけで52億7,700万円に上り、被害は増加の一途を辿っています。さらに昨今では市街地へ侵入したヒグマによる人身事故が大きな社会問題になるなど、北海道における獣害対策は近年、その価値と重要性が極めて大きくなっています。
しかし野生動物が相手である以上その対策は困難な点が多く、対応に苦慮する自治体が多いのが現状です。ハンターの高齢化、里山の放置など、特に深刻化している問題もあります。
そこで、エコニクスでは私を含めた社内の若手を中心としたプロジェクトを立ち上げ、これまで培ってきた野生動物調査のノウハウを活かしながら、エゾシカやヒグマに対する新たな獣害対策の手法を提供することを検討しています。
1. 野生動物の生態に即した獣害対策
獣害対策において重要なのは言うまでもなく、野生動物の生態に沿った対策を検討することです。しかし、環境や個体群の特性によって動物の生活様式は様々で、具体的な行動範囲を知ることは難しく、例えばどのような経路で人里(人の生活圏)に来るのかといった、獣害対策における基本的な情報すら把握できていないというケースもあります。この根本的な課題に対し、私たちの持つ調査技術が力になれるのではないか、という発想がこのプロジェクトのはじまりです。
2.「ゾーニング」による獣害対策
私たちが目指す獣害対策のカタチは、単に野生動物を排除するのではなく、現地調査によって野生動物の生態、行動範囲を明らかにし、「動物と人の棲み分け(ゾーニング)」を実現することです。
動物の棲む山林と人里の間に明確な境界を設け、野生動物が近づきにくい構造を作ることで、接触機会を減らします。具体的には、主として次の2つの対策を組み合わせた仕組みづくりを計画しています。
- 環境整備による「緩衝帯の創出」
野生動物の侵入経路となっている場所の草刈りなどを行い、森と人里の境界を見通し良く明確化します。 - 生態特性を踏まえた「障壁(電気柵など)」の設置
動物が引き寄せられる要因を分析し、心理的・物理的に侵入を防ぐ最適な障壁を考案・設置します。
獣害対策は、机上の計画だけで実現できるものではありません。地域で培われた経験、日々の試行錯誤、そして丁寧な経過観察を積み重ねることで、その地域に最適な「安心の境界線」を形にしていきます。

ゾーニングイメージ
3.駆逐・防除ではない新しいカタチの獣害対策
こうしたゾーニングによる獣害対策は継続的な駆除や追い払いといった労力を必要とせず、また時間経過と共に効果が薄れたり「慣れ」によって動物が警戒しなくなったりということもありません。
ゾーニングによる地域環境の改善は獣害対策の枠を超え、
- 放棄地、自然環境を活用した新規事業による地域経済促進
- 獣害を原因とした移住、観光等の心理的障壁の低下
といった形で、新たな経済効果を創出する可能性をも持っています。
4.これからに向けて
ゾーニングによる獣害対策は、地域住民への普及啓発などの教育や協働した活動による意識改革等と併せて実施することで、年々増加する獣害に対して大きく被害防止に貢献できる数少ない手法であり、今後、あらゆる地域や自然環境に関わる産業において注目されていくテーマになっていくと考えています。
当社では今まで培ってきた自然環境、野生動物への知見と技術を活かし、本テーマについて考え、実践を重ね、自然と共生する視点を大切にしながら農業現場や地域との対話を重ね、野生動物と人が互いを傷つけることなく生きていける仕組みを探っていきます。 今後も、野生動物と人が健全に生活できる仕組み作りについて、継続的に取り組みを発信していく予定です。このような獣害対策の取組にご興味のある方は、ぜひ弊社へご相談ください。
参考資料
野生鳥獣被害調査-環境生活部 自然環境局-北海道庁公式HPより
北海道ヒグマ管理計画 (第2期) 改定
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/higuma/higuma.html
野生鳥獣による農林水産業被害額調査結果(令和6年度)概要 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/2/8/4/8/4/1/5/_/概要版(令和6年度).pdf

