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2025.10.01
ECONEWS vol.388

キレイにお化粧?いいえ冬支度の最中です。

北海道では、ひと足早く紅葉の季節を迎えています。赤、黄、茶、緑、昔懐かしドロップの缶の中身を振りまいたような色とりどりの景色には、どんな秘密があるんでしょう?

株式会社エコニクス 自然環境部
陸域担当チーム 田口 敦史

 この記事を書いている2025年9月現在、北海道の山地からは、そろそろ紅葉の便りが届き始めました。春の花、夏の緑もいいものですが、秋の紅葉もまた植物がもたらしてくれる素敵な景観ですね。
 紅葉のきれいな樹木といえば、みなさんがまず思い浮かぶのはモミジやカエデでしょうか。「紅葉」と書いて「もみじ」と読ませることが出来るほど、日本人にとっては古くから馴染みのある仲間ですね。北海道に多いモミジといえば、ヤマモミジがあげられます。目の覚めるような真っ赤に染まった木に森のなかで出会えたら、だいたいヤマモミジだと思ってもいいかもしれません。他にも、1枚の葉で赤、黄、緑の色が混ざりやすいハウチワカエデ(別名:メイゲツカエデ)など、モミジやカエデの仲間には紅葉、黄葉の美しいものがたくさんありますね。
 他の仲間でも、生け垣や公園などに植えられる低木のニシキギ、道端に生える小さな多年草、ゲンノショウコなどなど、さまざまな草木がそれぞれ色とりどりに、冬枯れする前の美しい姿を楽しませてくれます。

ヤマモミジ
ニシキギ
ハウチワカエデ
ゲンノショウコ

 さて、こうして植物の葉が色づく「紅葉」または「黄葉」といった現象ですが、これはいったいなぜ、なんのために、どうやって起こるのでしょうか?実は、これは植物たちが冬支度をしている姿なのです。
 夏の青々とした緑の季節、植物たちは根から吸い上げた水と大気中の二酸化炭素を主な原料に、太陽からの光エネルギーを使って有機物の生産、いわゆる光合成をすることで、自分の体を大きくしたり花や実で子育てしたりしています。その太陽光を受け取るための色素、クロロフィルの色が、夏の緑なのです。夏が過ぎ、日差しが傾き気温は下がり、この生産活動、光合成の効率が下がる冬場は、いっそ葉を落として店仕舞い、というのが紅葉する落葉樹や越冬する多年草たちの経営方針なのですが、このとき葉にある有用資源、クロロフィルとくっついて有機物を生産していたタンパク質などは、葉を落とす前に分解して、母体である幹や枝へ回収しておきたいところです。このときにクロロフィルがあるままだと、分解や回収がうまくいかなかったり、クロロフィルがタンパク質から離れて太陽光を受けると活性酸素を生じ、それが細胞を壊すような悪さをしてしまったり、といった問題が生じます。よって、クロロフィルは資源回収の前に分解してしまう必要がある、その分解された葉の姿、それが私達の楽しんでいる黄葉や紅葉の正体なのです。
 黄葉は、クロロフィルが分解され、葉にもともとあって分解されないカロテノイドという色素の色が強く出たものです。紅葉は、クロロフィルが生成する活性酸素から身を守るため、アントシアニンという抗酸化作用のある色素が新たに生成されたものです。アントシアニンは、ブルーベリーやワインなどにも含まれ、健康食品の成分としてもお馴染みですね。
 我が家でも、布団を変えたりストーブを焚く準備をしたり、秋はいろいろ冬支度を進める季節です。その合間にふと見た窓の外の紅葉も、植物たちが同じようなことをしている姿、とみると、なんだか微笑ましく、より美しい姿に感じられる、ような気がします。

参考文献:秋の紅葉とクロロフィルの分解(伊藤,2025,低温科学,83,189-199 http://hdl.handle.net/2115/94806)