ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
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2025.12.25
藻場通信 vol.56

コンブに付く厄介者たち

自然環境部 海域担当チーム
工藤 俊樹

 近年の海水温上昇の影響を受け、北海道ではコンブ生産量が減少しており、2024年の水産現勢概報1)では統計開始以来で最低の8,660トンとなりました。これを受け、北海道では今年3月に「コンブの生産安定対策」2)をとりまとめ、環境変化に適応するための技術開発・普及に乗り出しています。
 弊社が藻場造成試験フィールドとして利用している渡島管内の天然マコンブ減産原因としては、成熟時期の遅れ、1年目個体の枯死・再生不良、摂食圧等が挙げられています。また、養殖コンブについては、種苗生産用の母藻減少、穴あき症、付着生物による品質の低下が懸念されています。
 本稿では、コンブにとって厄介者な付着生物の紹介をします。 


写真1 ヒドロゾアが付着したマコンブ
(2023年8月撮影)
【ヒドロゾア】
 漁業者の間では“ケ”と呼ばれています。主にモハネガヤという刺胞動物の一種であり、海水温が上昇する6月以降になるとマコンブに付着し始めます。漁業者へのヒアリングでは、ここ30年で被害が問題視されるようになったようです3)

写真2 コケムシ類が付着したマコンブ
(2025年10月撮影)
【コケムシ類】
 マコンブの表面が白く覆われるほどの群体を形成して付着します。渡島管内の太平洋側で多く確認されています。人体にとっては無害・無毒な生物4)ですが、コンブの品質に大きな影響を及ぼしています。

写真3 ウズマキゴカイ類が付着したマコンブ
(2025年10月撮影)
【ウズマキゴカイ類】
 2025年夏季の渡島管内津軽海峡側では、マコンブの表面に大量付着している様子が確認されました。本分類群は、6月以降に付着し、8月までには除去が困難なほどに成長します5)

 養殖コンブの付着生物対策として、水深調整による完全防除は非常に困難です5)。一部地域では、付着生物による成熟への悪影響を避けるため、7月に親コンブを確保して適切な温度や栄養塩を与えた水槽内で蓄養し、成熟を促進して種苗生産を早める「成熟誘導」6) が導入されています2)。弊社のフィールド試験においても付着物対策の検討が不可欠と今年は特に強く感じました。

参考文献:
1)水産統計(北海道水産現勢)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/sum/03kanrig/sui-toukei/suitoukei.html
2)コンブの生産安定対策について
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/gid/218774.html
3)前田高志(2024)環境変動に対応したコンブ養殖技術の開発. 育てる漁業, No.503, 4-9.
4)広瀬雅人(2015)生き物図鑑第2回コケムシ. メーユ通信. No.2, 2
5)植木龍夫, 佐藤敦, 中西広義(1975)コンブ養殖に関する試験.青森県水産増殖センター事業報告書. No.4, 128-132
6)道南マコンブ養殖で試験中の成熟促進技術について. 試験研究は今 No.948
https://www.hro.or.jp/upload/41564/ima948.pdf


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