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2024.11.25
藻場通信 vol.47

コンブのタネは目に見えない

自然環境部 海域担当チーム
工藤 俊樹

  本通信は、現地試験におけるコンブの生育状況に関する報告が主となっておりますが、今回は試験実施において最も重要な工程となるタネの入手(まさに今がその時期!)に関するお話しです。実はコンブのタネを肉眼で観察することはできません。タネがどのような姿をしているか、タネをどんな方法で入手しているかをご紹介したいと思います。

 コンブの生活史は、胞子体と配偶体というサイズが異なる2つの世代で成立しています (図1参照)。私たちがよく目にするのは胞子体の世代であり、成熟した胞子体には子嚢斑(しのうはん)と呼ばれる写真1のような模様が形成されます。

図1 マコンブの生活環
[北水試だより96(2018)より引用 ]

 写真1 ホソメコンブの子嚢斑

 子嚢斑からはコンブのタネの元となる遊走子(約0.01mm)が放出され、海底等の基質に着底すると配偶体の世代へ移り変わります。配偶体の世代では、雌雄に分かれており、雌雄の生殖細胞が受精することで再び胞子体の世代に移行することになります。

 コンブ生育試験用のタネを入手するための作業工程は、まず子嚢斑の形成された母藻を採取することから始まります。母藻の傷んだ箇所や付着物を除去して洗浄し、陰干しして水分を切ります。そして、水分が切れたらコンブを新聞紙に挟み込み、一晩養生処理した後、そのコンブを海水に浸して遊走子を放出させます。

 子嚢班から遊走子が放出されている最中、目視では黄色いモヤ状に見える場合があります。しかし、遊走子の放出を確実に確認するには実体顕微鏡による検鏡が必要です。顕微鏡下の遊走子は動画1に示したような姿をしており、鞭毛を使って盛んに泳ぎ回っています。ちなみにホソメコンブの遊走子の場合、着底するまでの時間は一般的に6時間以内、最大でも12時間以内と報告されており、その時間内に到達した基質に着底するものと考えられています。つまり、着底するまでの時間が野外での拡散範囲に大きく作用しており、その距離は概ね500m、最長で1,200mとされています。

 今、まさにこの時期、コンブの次世代たちは分布の拡大を図っている最中なのです。

動画1 ホソメコンブの遊走子

参考文献:
前田高志(2018) 道南海域のコンブ漁業~コンブ養殖は天然コンブから.北水試だより96
<https://www.hro.or.jp/upload/41186/dayori961konbu.pdf>
コンブ人工種苗生産.
<https://www.hro.or.jp/fisheries/h3mfcd0000000gsj/marine/o7u1kr000000019q/o7u1kr000000d760/o7u1kr000000dbjv.html> 
秋野秀樹,川井唯史,四ツ倉典滋,河野時廣(2015)北海道泊村沿岸表層におけるホソメコンブ遊走子の移送と空間分布.水産工学.Vol.52(1).pp1-9


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藻場通信_Vol47