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2021.05.25
藻場通信 vol.05

コンブ藻場を取り巻く環境

★コンブの様子

まずは函館のライブカメラでコンブの様子を見てみます。
カメラは概ね水深4mの海底に設置してあり、コンブが着生した施設は海底から1mほど立ち上がっています。カメラも同じくらいの高さです。
先月から比べてコンブの長さも長くなり、本数も増えたように見えます。
かなり順調に育っている様子です。
今回も写真ではかなり遠くまで見えていますが、多少カメラ映りを意識した画選びになっていて、日によってはもう一枚のようにかなり濁っています。この濁りは水塊や波浪、河川水などの影響によるものです。今回はライブカメラが設置されている函館津軽海峡の水環境、さらには環境、生態系について触れ、最後に藻場回復との関わりについて話します。


写真 水中ライブカメラの映像(2021年5月3日)
水が澄んだ時の海底


写真 水中ライブカメラの映像(2021年5月18日)
水が濁っている時の海底

★水塊

北海道は3つの異なる大きな海に囲まれています。高温で栄養塩の低い津軽暖流の影響を受ける日本海、低温で栄養塩の高い親潮の影響を受ける太平洋、そしてオホーツク海です。
ライブカメラの位置する函館は主に対馬暖流(津軽暖流)の支配下にあり、親潮の影響も受けています。2月から6月頃にかけては親潮の影響が徐々に弱くなるため水温上昇と栄養塩低下が顕著になります。つまりコンブにとってはある意味日本海よりも厳しい時期かもしれません。

図 ライブカメラ周辺の水温の広域分布(水深50m層)
気象庁ホームページ「旬平均表層水温」(https://www.data.jma.go.jp/gmd/ kaiyou/data/db/kaikyo/jun/sst_HQ.html)から2021年4月下旬の深さ50m層水温図を加工して作成

★波浪

 次に波浪の話をしましょう。
ライブカメラから見ることができる海底では、水が常に水平に揺れています1。この揺れは海の表面の波が海底に伝わった結果生じる振動流です。振動の大きさは波の大きさと比例し、振動の周期は波の周期と同じです。波の大きさは風に依存し、冬は主に北や西からの風、波が強く、夏は主に南、東からの風、波が強くなります。海岸近くでは海からの風が大きな波となるため、北海道の日本海側では冬に、太平洋側では夏に波が高い日が続きます。
磯焼け地帯で藻場を形成させる上で重要なウニは、この波浪振動流の影響を強く受けることがよく知られています。一般に振動流速が25cm/s以上で動きが弱くなり40cm/s以上ではかなり動けなくなると言われています。先のグラフを見ると、日本海では冬は流速が強いためウニの動きが止められ、春から夏にかけては活発になるであろうと予想されます。具体的にナウファスの波高が何m以上だとウニが動けなくなる流速(40cm/s)を超えるかどうかは地形や水深との関係があるので一概には言えませんが、おおよそ3~4月の時期が移行期間のようです。
水温同様4月はコンブの生き残りをかけたとても重要な時期であることが伺いしれます。
ライブカメラが設置されている函館は地形から察するに南北からの波は低い一方、東西からの波は高い傾向にあり、日本海、太平洋の特徴を少しずつ受ける特殊な海域であると言えます。

注1 エコニクスHP URL: http://www.econixe.co.jp/

図 北海道の二海岸における平均波高の月変化

 ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網 : NOWPHAS : Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS )の「留萌」「十勝」における2008年~2018年の観測データから平均波高の平均値を算出.

 出典:本稿で用いた波高データは,国土交通省港湾局によって観測され,港湾空港技術研究所で処理されたものである.

★生態系

最後に生態系の話をしましょう。
私たちが取り組んでいる藻場造成は以前のようなコンブ藻場にとって良好な環境、条件を限定的ではありますが人為的に作り出すことを目標にしています。特に実行可能な対策として食害生物からの回避と対象海藻の「タネ」の供給を主としています。しかしコンブ藻場にとっての良好な環境条件は先にあげた水質や波浪条件、前々号(Vol.3)で紹介したような競合生物など複数の要素が多段階に渡り関与します。
そのため昔は藻場だった海域はレジリエンス(復元力、粘り強さ)を持つためウニの増加だけで直ちに磯焼け地帯になることはなく、徐々にパワーバランスが磯焼け地帯よりに変化した結果なのです。これは図で示すと「状態1」→A(海藻もウニも多い)→「状態2」のルートになります。一方磯焼け地帯も何もない空間ではなく「サンゴモ平原」と呼ばれる安定した生態系を形成しておりレジリエンスを持ちます。そのため状態2からAを経て状態1になることはできず、B(ウニは少なく海藻も少ない)を経てやがて状態1に遷移すると思われます。これは下の図を上下さかさまに回転するとよくわかると思います。このため、ウニを除去してもしばらくは海藻が見えない期間が続くことが想定されます。
環境は複雑なので、藻場を回復する前浜の取り組みは直ちに目に現れる効果を示さないかもしれませんが、生態系の回復を静かに待ちつつ継続した活動を続けたいです。弊社ライブカメラによる監視は今まで確認できなかった生態系回復の状況を確認できる手段の一つになると期待しています。


ウニ密度と海藻被度の関係
出典:「水産庁(2021):第3版 磯焼け対策ガイドライン」の図を加工して作成