株式会社エコニクス
環境事業部 小山 康吉
日本では昔からザリガニと言えばこの種のことを指すはずですが、皆さんは真っ先にアメリカザリガニを連想するのでは無いでしょうか。
このニホンザリガニは正式に表記すると以下となります。
節足動物門 甲殻綱 エビ目 アメリカザリガニ科 ニホンザリガニ Cambaroides japonicus
改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 2006. 財団法人 自然環境研究センター より
名前にはカニと付きますが、分類上は甲殻類に属したエビの仲間です。
北海道には3種類(ウチダザリガニ、アメリカザリガニ、ニホンザリガニ)のザリガニ類が分布していると言われていますが、特に北海道・青森・秋田・岩手にしか生息しないニホンザリガニは、在来のザリガニとしてはこの一種だけです。他の2種については、産業目的やゲリラ放流などにより人為的に移入された種です。
参考にザリガニ類3種の形態的特長を以下に示しておきます。
図 ザリガニ類の分類(スケール:1cm)
西村士郎ら 2002. 北海道に分布するザリガニ類の採集と飼育方法. さけ科学館 館報, 第14号,http://www.sapporo-park.or.jp/sake2/misc/report.html
日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅱ) 1995. 社団法人 日本水産資源保護協会 より作成
学名を見ても「japonicus」と付くように、まさしく日本固有のザリガニということが伺えます。参考までに「japonicus」と付く代表的なものを挙げてみます。
●植 物: アキタブキ Petasites japonicus
●昆 虫: アメンボ Gerris paludum japonicus
●両生類: オオサンショウウオ Andrias japonicus
●哺乳類: ヤマネ Glirulus japonicus
●魚 類: カタクチイワシ Engraulis japonicus
●無脊椎: イセエビ Panulirus japonicus
かつて、このニホンザリガニは、北海道や東北地方のいたるところの河川等に生息が見られていました。しかし、近年は生息地の開発が進んだことで、生活排 水の流入や農薬の使用など、ここ20・30年の間に急激に生息環境が悪化し、その生息地は年々狭められています。更に1926年には水産資源としてウチダ ザリガニが移入され、北海道では個体の減少に拍車がかかり、2000年には環境省 レッドリストにおいて『絶滅危惧II類(VU)』に指定されてしまいました(現在:2006 レッドリスト)。
何故この種が減少傾向にあるのかというと、生息するための場所に厳しい条件が求められるからだと考えられます。
●夏季でも比較的冷水である
●冬季でも安定した水温と水量が必要
●窒素系などの汚濁が少ない
●生息地周辺の植生は落葉広葉樹林帯である
また、ニホンザリガニは成熟するまでに5-6年の歳月を必要とし、産卵数も他のザリガニ類に比べ非常に少ないことから、生息個体数が減少するとその回復にも時間が掛かると考えられます。
表 ニホンザリガニと他のザリガニの繁殖力の比較
北海道ブルーリスト(http://bluelist.hokkaido-ies.go.jp/),川井 1993. ザリガニ Cambaroides japonicusの自然誌と分布北限地の博物学的知見. 北海道の自然と動物, No7 より作成
更に、近年爆発的に個体数を増加させ生息域を拡大しているウチダザリガニが、ニホンザリガニの減少に拍車をかけています。ウチダザリガニは比較的冷水な所でも適応できるため、生息域の競合や直接的な捕食なども懸念されます。また、ザリガニカビ病を蔓延させる恐れもあると言われています。
そのために現在は、特定外来生物に指定され、少しずつですが駆除等の取り組みが実施されてきています。
ニホンザリガニは、今やかなりの勢いで追いつめられ、個体数は減少の一途をたどっています。もし開発地域で生息が確認された場合、まずは現状の把握が必要かと思います。その後、ミチゲーションの考え方に則り、対処を行う必要があるでしょう。
表 ミチゲーションの定義
札幌出身の私ですが、小さい頃(30年ほど前)は、よく近くの山に出かけ、ニホンザリガニを沢山獲ってきて育てたものです。
ちょっとした沢で大小様々な個体が石の下や泥の中に居たのを今でも鮮明に記憶しています。
確かにアメリカザリガニに較べ、成熟しても個体は小さく、その色彩ゆえの弱々しい姿が迫力に欠けますが、なんともゆっくりと生きている感じがし、今では優雅にすら感じられます。
今回お話したように、様々な影響に左右される弱い生き物です。今後も北海道で生き延びられるのか?と心配になります。
小さい頃に遊んで貰ったザリガニへの恩を少しでもお返しできればと・・・