ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2009.05.01
ECONEWS vol.191

ベントスって何?―底生生物調査のあれこれ―

株式会社エコニクス
環境事業部 水域環境チーム 武田 康孝

 私たちのチームは、Econews Vol.188~190でご紹介しましたように、北海道沿岸を中心とした海域に生息する生物やその生物を取り巻く環境などに関する調査や事業に取り組んでいます。
 特に水域におけるモニタリング調査の場合、その調査項目は多岐にわたり、水質調査、底質調査などの物理化学的な環境の調査から、底生生物調査、プランクトン調査、卵稚仔調査などの生物学的な環境の調査などまで色々な項目が挙げられます。これらの調査項目について、長期間にわたって継続的に調査を行うことにより、海域環境の変化を把握、あるいは監視することが主な調査の目的となります。
 今回は、これらの調査項目のうち、生物学的な環境の調査の一つである底生生物調査で採集される生物についてご紹介したいと思います。

■底生生物調査
 底生生物調査は一般に「ベントス(benthos)」と呼ばれる水底に生息する生物を対象にした調査です。「ベントス」は水底に生息する生物の総称として、ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケル(E. Haeckel)が名付けたことが始まりになります。通常、ベントスのうち小型の環形動物や節足動物などは魚類などのより大型の動物の餌として重要な役割を担っています。また、ベントスのうち二枚貝類は餌として有機物を生体内に取り込むことから、最近では水質浄化としての機能が注目視されています。
 一般にベントスというと動物を指しますが、特に無脊椎動物に限定されることが多いようです。また、ベントスは体サイズによって以下のように類別されます。

表 体サイズによるベントス区分

名 称 区 分
メイオベントス 成体の大部分が0.5mm目合いのふるいを通過する小型多細胞動物。
マクロベントス 成体と幼稚体の大部分が0.5mm目合い、ないし1mm目合いのふるい上に残るベントス。
メガロベントス
(もしくはメガベントス)
大型および低密度で、採泥器採集で密度推定が不可能なベントス。

 また、メイオベントスより小型な原核生物や単細胞生物をマイクロベントス(もしくはミクロベントス)と類別することもあります。通常の海域調査では、採泥した底質から1mm目合いのふるいを用いてベントスを分離する場合が多いです。
 一方、「ベントス」は水生生物の存在様式(水底に生息するという様式)から区分される概念のグループであるため、ベントス調査で確認される動物群は二枚貝類・巻貝類などの軟体動物、ゴカイ類などの環形動物、エビ類・カニ類などの節足動物、ウニ類・ヒトデ類・ナマコ類などの棘皮動物、ホヤ類などの原索動物など多様な動物群が出現することとなります。
 以下の写真に挙げたベントスは、底生生物調査で1mm目合いのふるい上に残ったベントスのうち、主な動物群である軟体動物、環形動物、節足動物に属する小型のベントスになります。

軟体動物(ヒメムシロガイおよびサクラガイ)
環形動物(ツルヒゲゴカイおよびその頭部)
環形動物(ライノサシバおよびその頭部)
節足動物(アゴナガヨコエビおよびヤマトモエビ)

※スケールは1mmを表す。

 これらのベントスのうち、ゴカイ類などの環形動物はその形態から一般に、特に女性には敬遠されがちな見た目ですが、アップで見ると結構、愛くるしい顔立ち(形態)をしていると思いませんか?
 実際に顕微鏡を覗いていると親近感が出て、なかなか愛着が湧いてきます。
 こういった生き物が水底にはたくさん棲息しているわけですが、今後、私たちの取り組みがこれらベントスを含む海生生物が生息する環境、特に沿岸海域の環境の保全に微力ながらも貢献できるように努めていきたいと考えています。

※なお、当社では顕微鏡用のデジタルカメラシステムを導入し、高解像度の個体撮影が可能となりました(上記の画像がそうです)。綺麗で鮮明な画像が撮影できますので、何かご要望がございましたら、お気軽にご相談ください。