株式会社エコニクス 自然環境部
海域担当チーム 工藤 俊樹
細長い体に背側は青緑色や暗緑色、腹側は銀白色に輝くマイワシSardinops melanostictusは日本人にとって馴染み深い魚で、多くのスーパーマーケットの鮮魚コーナーでよく見られます。体側に1~3列の黒点が並ぶことから「ななつぼし」とも呼ばれ、ニシンClupea pallasiiと区別することができます。また、鰓蓋に数本の骨質隆起線があることがマイワシ属Sardinopsの特徴です。マイワシ属は世界に5種いるとされており、いずれもインド-汎太平洋の温帯域に生息しています。1) 興味深いことに、日本近海を含む北西太平洋に生息するマイワシとペルー・チリ沖周辺の南東太平洋に生息するS. sagaxの漁獲量の変動には共通の傾向が見られます。同様の傾向がカタクチイワシEngraulis japonicaとE. ringensでもみられますが、その変動はマイワシと逆位相となっています。これは、地球規模の長期的な海水温の変動に伴う海洋生態系の変動を示す好例として知られています。2)
マイワシ標本(左図)、津軽海峡周辺海域で撮影されたマイワシ(右図)
北海道では、1980年代に100万トンを超える漁獲があったものの急減し、1999~2010年は5千トンを下回りましたが、2011年以降は増加傾向にあります。2021年の北海道の魚種別漁獲量では、マイワシが約25万トンで2番目に多くなっており、漁獲の中心となるのが釧路のまき網漁業です。北海道のマイワシ漁獲量変動の傾向はマイワシ太平洋系群の資源量変動の傾向と概ね一致しています。マイワシ太平洋系群では近年増加傾向が見られるものの、資源量予測では1980年代ほどの資源量に回復する見込みには至っていません。3)。
北海道周辺のマイワシ漁獲量の推移(1991~2022年)4)
2023年12月以降、北海道各地でマイワシの漂着が相次いでいます。5) マイワシは、夏に北海道周辺で餌を食べ、冬に南下して越冬しますが、例年よりも水温が高かったために南下しなかった群れが水温の急低下によって斃死したのではないかと見られています。北海道におけるマイワシの漂着・斃死現象はたびたび報告されており、多くは生息下限水温の10℃未満の冷水の影響と考えられています。6) マイワシは赤身魚で脂が多く鮮度が落ちやすい上、食中毒のリスクがあるため、漂着マイワシの食用はおすすめいたしません。
漂着マイワシが確認された地域(左図)、日本海沿岸で斃死していたマイワシ(右図)
1) 中坊徹次(2018):小学館の図鑑Z日本魚類館.小学館,東京,pp524.
2) 山村織生(2016):第10章 海洋生態系の長期変動.津田敦・森田健太郎,海洋生態学.共立出版,東京,231-243.
3) 水産政策審議会 第127回 資源管理分科会 配布資料 資料4:特定水産資源(さんま、まあじ、まいわし太平洋系群、まいわし対馬暖流系群、かたくちいわし対馬暖流系群及びうるめいわし対馬暖流系群)に関する令和6管理年度における漁獲可能量の設定及び当初配分案等について(諮問第429号)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/231102.html
4)北海道水産現勢
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/sum/03kanrig/sui-toukei/suitoukei.html
5)北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1000101/
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1013520/
6)黒田一紀(2015):北海道日高沿岸で発生したマイワシの漂着・斃死現象.水産海洋研究,79(4),pp. 308-315.