株式会社エコニクス
顧問 富士 昭
味噌汁の中のシジミを見て、誰もが第一に疑問に思うのは、この大きさの個体は何歳なのだろうかということではないでしょうか。一般に貝類の年齢査定には、殻をつくっている炭酸カルシウムの晶出による透明な輪紋の数を殻板の切断面から読み取る方法がとられています。貝殻はアラゴナイトから構成されていますが、厚さを増す方向に増加する内層は複合交差板構造、大きさを増す方向の増大をもたらす外層は微交差板構造といわれています。外層に見られる微細な成長線は、1日の代謝活動の停滞により微交差板の晶出が停止して複合交差板が見やすくなったためにあらわれた日輪であり、低水温などによる成長停滞が続くと日輪の密集帯がつくられて、結果的には複合交差板が透明帯として観察されるわけです。この透明帯は1年のうちで冬季間に1本つくられますので、この数が年齢をあらわすことになります。殻の成長は住んでいる水域で異なっており、殻長(L:mm)は年齢(t)により
網走湖 ………………………… L=35.25(1-exp (-0.205 (t + 0.130)))
小川原湖南域 ………………… L=35.12(1-exp (-0.205 (t + 0.138)))
という成長式で表わすことができます。年齢1歳で5mm、2歳で12mm、3歳で18mm、4歳で22mm、5歳で25mm、6歳で28mm、7歳で30mm位とみてよいでしょう。
では、何歳から親となるのでしょうか。それにはどの位の大きさから精子や成熟卵をつくるかを調べることで解ります。ヤマトシジミは雄と雌の個体があり、体表皮と内臓嚢の間にある生殖小嚢の中に卵や精子がつくられますので、この場所を8μm(1000分の8mm)位の厚さに薄く切り出して顕微鏡で小嚢全体に卵や精子があるかどうかを観察し、それをもっている個体の大きさと、つくられる時期とを調べる訳です。成熟卵は直径80μm位の球形、精子は長さ10μm、幅1.5μm位の棘状の先体部をもっています。このような成熟生殖細胞は、雄では殻長10mm以上、雌では13mm以上の大部分の個体で観察されますので、初めて成熟して親になるのは年齢満2歳ということになります。ヤマトシジミは夏から秋にかけて産卵しますが、北の地方ほどその期間は短く南の地方ほど長期間にわたります。北海道の網走湖や青森県の小川原湖や十三湖では7月中旬から9月中旬位ですが、島根県の宍道湖では4月から11月、最も盛んな期間でも6月初旬から9月下旬にも及びます。
さて、あなたが食べていたシジミは何歳でしたでしょうか?