ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2026.10.01
ECONEWS vol.400

企業と地域の未来を支えるグリーンインフラ ~防災とネイチャーポジティブを両立する~

自然の力を防災や地域づくりに活かす「グリーンインフラ」に大きな注目が集まっています

株式会社エコニクス 自然環境部
田保 知佳

 2026年は全国各地で短時間豪雨や線状降水帯による水害が頻発し、「これまで経験したことのない大雨」という言葉を耳にする機会が増えました。河川の氾濫や内水氾濫による浸水被害は、地域住民の生活だけでなく、企業活動や社会基盤にも大きな影響を与えています。
 一方で、生物多様性の損失も世界的に大きな課題となっています。生きものの減少は自然環境だけの問題ではありません。森林による水源涵養機能や、湿地による洪水緩和機能、藻場による漁場形成機能など、私たちの暮らしや産業を支える自然の働き(生態系サービス)に大きく影響を及ぼします。
こうした中で注目されているのが「グリーンインフラ」です。グリーンインフラとは、森林や河川、湿地、都市緑地など自然が本来持つ機能を活用し、防災・減災や地域づくりに役立てる考え方です。
近年では、ネイチャーポジティブと気候変動対策を同時に実現できる取り組みとして、企業や自治体からの関心が高まっています。

1.なぜ、企業や自治体にグリーンインフラが求められているのか
 エコニクスは自然環境の調査を通じて、森林や湿原、藻場などが持つ様々な機能を目にする機会があります。
 こうした自然は、生きものの生育・生息地であるだけでなく、洪水を緩和したり、水産資源を育んだりと、私たちの暮らしや産業を支える重要な役割も担っています。
 では、その自然を地域づくりや企業経営にもっと活かすことはできないのでしょうか。
 企業や自治体を取り巻く環境は大きく変化しています。
 企業では、気候変動による災害リスクへの対応に加え、自然資本・生物多様性に関する取組や情報開示が求められるようになりました。特に、CDPやTNFDへの対応が重要となっており、金融機関や投資家は、企業が自然環境にどのような影響を与え、どのようなリスク管理を行っているかに注目しています。
 自治体においても、頻発する自然災害への備えに加え、生物多様性地域戦略、ネイチャーポジティブ、脱炭素施策など複数の政策課題への対応が求められています。しかし、人口減少や財政の悪化など制約が進む中、個別に対策を進めることは容易ではありません。
 グリーンインフラは、防災・減災、生物多様性保全、地域活性化など複数の課題を同時に解決できる可能性を持つことから、企業と自治体の双方にとって有効な選択肢として期待されています。

2.グリーンインフラがもたらす多面的な効果
 グリーンインフラの最大の特徴は、一つの取り組みが複数の効果を生み出すことです。
 例えば、雨水を一時的に貯留する雨水庭園や遊水地は、大雨時の浸水被害を軽減するとともに、水辺環境を利用する昆虫や鳥類、両生類の生息場所となります。
 また、敷地内に在来植物を活用した緑地を整備することで、生物多様性の向上だけでなく、景観向上やヒートアイランド対策にもつながります。
 自然の力を活用することで、防災機能と環境価値を同時に高められる点がグリーンインフラの大きな魅力です。

3.企業が取り組むメリット
 企業にとってグリーンインフラの整備は、単なる環境対策ではありません。経営上のメリットをもたらす投資として捉えることができます。

① 防災・BCP(事業継続計画)対策
 豪雨による浸水や冠水は、操業停止や設備被害を引き起こす可能性があります。雨水貯留機能を持つ緑地や保全池を整備することで、自社敷地内の災害リスク低減につながります。
② ESG・サステナビリティ経営への対応
 自然資本への依存や影響を把握し、生物多様性に配慮した取組を実践することは、TNFDやCDPなどで求められる情報開示の基盤となります。
③ 自然共生サイト認定への展開
 良好な自然環境を保全・創出した区域は、環境省が認定する自然共生サイトやOECM登録の対象となる可能性があります。これは国際目標である30by30への貢献にもつながります。
④ 企業価値・エンゲージメントの向上
 地域社会や従業員、取引先に対して企業の環境への取り組みを示すことができ、企業ブランドの強化や従業員のやりがい、ひいては採用力の向上も期待されます。
 自然と触れ合える環境は、ストレス軽減、健康増進、コミュニティ形成にも効果が期待されています。これらは近年注目されるウェルビーイング経営とも親和性が高く、人材確保や定着にもつながります。
⑤ 不動産価値・資産価値の向上
 グリーンインフラの整備は防災対策や環境対策だけでなく、不動産価値や事業用地の魅力向上にも寄与します。
 良好な緑地や水辺空間は利用価値の向上につながり、オフィス・工場・商業施設・住宅地の付加価値向上が期待されています。

4.自治体が取り組むメリット
 自治体にとってグリーンインフラの整備は、防災・減災だけでなく、生物多様性保全や地域活性化を同時に実現できる可能性を持っています。
 北海道各地には、河川や湿原、藻場など地域ならではの自然環境が残されています。こうした自然は、多様な生きものの生息地であるとともに、観光資源や地域の魅力としても大きな価値を持っています。
 自然観察やエコツーリズム、環境教育などの活動を通じて交流人口や関係人口の増加が期待されるほか、地域住民が自然環境の保全活動に参加することで、地域コミュニティの活性化や郷土への愛着の醸成にもつながります。
 また、生物多様性地域戦略やネイチャーポジティブの推進、脱炭素まちづくりなど、複数の政策課題を地域の自然資本を活かしながら総合的に進められる点も大きな魅力です。
 限られた財源の中で多様な行政課題へ対応するための有効な選択肢として、グリーンインフラは今後ますます重要性が高まると考えられます。

5.北海道におけるグリーンインフラの可能性
 北海道には広大な森林や湿原、豊かな海が広がっています。
 私たちは普段、それらを「自然環境」としてだけ捉えることが多いかもしれません。しかし、これらの自然は景観や生きものを支えるだけでなく、農林水産業や地域経済を支える重要な基盤でもあります。
 例えば、森林は林業や利水のための水資源の維持に、河川や湿原は農業を支える良好な水環境の形成に、藻場は水産資源を育む場として漁業に大きく貢献するとともに、ブルーカーボンとして二酸化炭素を吸収し、波浪を緩和する役割も持っています。北海道の基幹産業である農林水産業は、こうした自然資本の恩恵の上に成り立っていると言っても過言ではありません。
 また、北海道には日本有数の豊かな自然環境が残されており、生物多様性の保全や自然資本の向上を目指す上でも大きな可能性を秘めています。近年注目されるネイチャーポジティブや自然共生サイトの取組を進める上でも、北海道は大きなポテンシャルを持つ地域といえるでしょう。
 こうした自然の価値を改めて見直し、地域づくりや企業活動に活かしていくことが、これからの北海道に求められているのかもしれません。

おわりに
 気候変動への適応と生物多様性の回復は、これからの企業活動や地域づくりにおける重要な課題です。
 グリーンインフラは、防災・減災、生物多様性保全、脱炭素、地域活性化といった複数の課題を同時に解決できる可能性を持っています。
 その効果を最大限に発揮するためには、防災・生物多様性・地域活性化などの効果を継続的に評価し、その価値を社会へ示していくことが重要です。
 エコニクスでは、生物調査、環境DNA分析、水質調査、GIS解析等を通じて、自然環境が持つ機能の定量評価や価値の見える化を行い、地域や企業がその価値を活かせるよう支援することで、持続可能な地域づくりに貢献していきたいと考えています。

【参考文献】
 国土交通省(2026)『グリーンインフラ推進戦略2030』
 国土交通省(2023)『グリーンインフラ推進戦略2023』
 環境省(2023)『生物多様性国家戦略2023-2030』~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~
 環境省(2023)『LEAP/TNFDの解説』
 環境省『30by30・自然共生サイト』HP
 環境省『ネイチャーポジティブポータル』HP