自然環境部 海域担当チーム
大島 広幹
弊社では藻場通信で紹介しているライブカメラ前での藻場造成試験のほか、他地区でも試験を行っています。今回はその試験地区でみられた「ある事象」について紹介します。
写真は津軽海峡地区での試験状況です。昨年11月に設置した施設が、4月には繁茂したコンブで施設が隠れるほど生長していました(写真1)。
写真1 試験状況(左:2021年11月、右:2022年4月)
4月の調査時のことですが、観察中に葉先のみ色が濃くなって凹凸のあるコンブを数本みつけました(写真2)。
写真2 葉先のみが濃くなったマコンブ
「これはまさか?」と、採取して有識者に確認した結果、そのまさかです。これまでの藻場通信で紹介しているため、察しのいい方は既にお気づきかもしれませんが、正体は「子嚢斑(しのうはん)」です。
藻場通信Vol.17図2にコンブの生活史が記載されていますが、通常マコンブが子嚢斑を形成するのは秋口で、葉体生長期の4月には子嚢斑の形成はまずおきません。また、子嚢斑は通常基部(葉の根本)から形成されるため、葉先にのみ形成されることもありません。なぜこの現象が起きたのか、その答えは二村ら(2002)に報告されていました。
(参考) vol.17に掲載したコンブの生活史
要約すると、コンブの中帯部に傷ができると、栄養の供給経路に異常が生じ、傷よりも先端付近に、時期を問わず子嚢斑が形成されるというものです。このコンブには中帯部に傷があったことから(写真3)、まさに文献の通りの現象が起きていたと推測されます。
写真3 中帯部の傷
今回の事象から、どんなに小さくても目の前の変化に気づくこと、それを様々な研究や報告から正しい理解をすることが重要だと再認識できました。
そしてそれが藻場造成技術を開発するために必要なことだと感じています。
参考文献
二村和視、水田浩之(2002)マコンブ藻体片における子嚢斑形成パターン,水産増殖, 50(2),157-162.
ブルーカーボン、カーボンニュートラル、クレジット、磯焼け、コンブ、ウニ、藻場造成、海藻分布、生物多様性、水中ライブカメラ