株式会社エコニクス 環境技術部
生活環境担当チーム 山崎 浩之
近年、特定化学物質や有機溶剤等の取り扱いについて、リスクアセスメントの観点から従業員の労働環境改善や、SDGsの3つ目の目標である「すべての人に健康と福祉を」に起因する従業員の健康確保を実現するため、様々なお問い合わせが増えております。
今回は、労働環境改善の中でご質問が多かった、局所排気装置について説明したいと思います。
【局所排気装置とは】
局所排気装置とは、工場や作業場などで発生する特定化学物質や有機溶剤、粉塵などの人体に有害な物質について、作業者が吸引や暴露されないように有害物質を屋外に排出する装置のことです。
有害物質の発生源のそばに空気の吸い込み口(フード)を設けて、定常的に吸引できる気流をつくりだし、有害物質が作業場所に拡散することを防止します。
吸い込まれた有害物質は吸い込み口から配管(ダクト)を通り室外に排出されますが、その際に排気による大気汚染を防止するため、排ガス処理装置(スクラバー)や集塵装置などをダクトに取り付けます。
局所排気装置は、吸い込み口の形状や設置場所、制御風速等が適切な状態でないと、作業場所以外に有害物質が拡散する可能性があります。
また、局所排気装置の構造や性能については、厚生労働省令(有機則・特化則など)に則り、各要件を満たす必要があります。
局所排気装置(ドラフトチャンバー)での作業例
【制御風速とは】
局所排気装置を稼働させた際、有害物質の拡散を防止するために必要となる風速のことを制御風速といいます。
対象物質や局所排気装置の形式により、定められている制御風速は異なり、この制御風速を適切に設定することが重要となります。その際に作業内容により最適な風速設定の検討が必要となる場合があります。
また、局所排気装置を正常に稼働させるためには、排ガス処理装置や集塵装置の定期点検にあわせて制御風速の確認が重要となります。
表 有機溶剤中毒予防規則に定められた制御風速(有機溶剤)
形式 | 制御風速(m/s) | |
囲いフード | 0.4 | |
外付け式フード | 側方吸引式 | 0.5 |
下方吸引式 | 0.5 | |
上方吸引式 | 1.0 |
表 有機溶剤有毒予防規則に定められた制御風速(粉じん)
形式 | 制御風速(m/s) | ||
囲いフード | 0.7 | ||
外付け式フード | 側方吸引式 | 1.0 | |
下方吸引式 | 1.0 | ||
上方吸引式 | 1.2 |
表 特定化学物質障害予防規則に定められた制御風速
物の状態 | 制御風速(m/s) |
ガス状 | 0.5 |
粒子状 | 1.0 |
特定化学物質や有機溶剤等の化学物質を取り扱う事業者は、その危険性または有害性を特定し、その物質による労働災害の重篤度と、災害が発生する可能性の度合いを組み合わせてリスクを算定し、その重篤度に基づいてリスクを低減するための措置をおこなう必要があります。この一連の取組みをリスクアセスメントといいます。
労働安全衛生法が改正され、2016年6月1日から全事業場でのリスクアセスメントの実施が義務化されていますが、これらは多様化する化学物質による従業員の健康被害や労働災害等に対応するため、大切な取り組みとなります。
事業者は、労働安全衛生法において、健全な作業環境の提供と労働者を労働災害から守ることが義務となっております。近年では、「溶接ヒューム」も労働者の健康を損なう恐れがあることから、2021年4月1日より作業等に係る作業環境管理が強化されるなど、関連法令の改正も随時行われており、今後も従業員の様々な労働環境の改善が必要になっていくことが予想されます。
従業員の労働環境改善や作業環境測定の実施は、お気軽に弊社にご相談ください。弊社の作業環境測定士が衛生工学に基づき、環境測定からリスク低減の提案まで一貫してご対応いたします。
【関連法規】
・労働安全衛生法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057
・有機溶剤中毒予防規則 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000036
・特定化学物質等障害予防規則 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000039_20210401_502M60000100134
・鉛中毒予防規則 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000037
・粉じん障害防止規則 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=354M50002000018
【参考資料】
・厚生労働省 局所排気装置の定期自主検査指針
https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-49/hor1-49-30-1-5.pdf
・厚生労働省 リスクアセスメント等関連資料・教材一覧 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/index.html