株式会社エコニクス 環境技術部
小山 康吉
厚生労働省より令和4年5月31日に厚生労働省令第91号が公布され、労働者が化学物質のばく露による健康障害を防止するため、労働安全衛生施行令および労働安全衛生規則、特定化学物質障害予防規則が大きく変更されました。
変更の主な内容は、事業者は定められた化学物質に対するリスクアセスメントをおこない、その結果に基づいたばく露防止のための措置を適切に実施するよう求められています。
化学物質による労働災害の原因の大部分は、化学物質に関する特別規則(特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則)の対象から外れた物質によるものであったことから、これら対象外の有害な化学物質についてばく露の上限となる基準が策定されました。
厚生労働省のHPより
リスクアセスメントの対象物質の範囲が拡がったことから、本取組みに対してどういった事から始めたら良いかお困りの方も多いと思いますので、本号では作業の流れと参考となる資料等をご紹介いたします。
弊社は化学分析事業を実施していることから、数多くの化学物質を取り扱っており、法改正に伴うリスクアセスメント実施の対応をおこないました。
作業の大まかな流れとしては以下の通りとなります。
※リスク判定結果のうち、目と皮膚に対するリスクが存在する場合は、
必ず保護メガネや手袋、マスク等の個人防護器具が必要となります。
使用している全ての化学物質を洗い出しする際は、化学物質の名称は似たものが数多くあるため、名称を間違わないように注意してください。その際にCAS登録番号(CAS RN®)も合わせて整理しておくと、その後の作業が楽になります。CAS登録番号については、化審法データベースで検索が可能となっており、対象物質のSDSの中にも表記されています。
SDSについては、事業者が労働者に対して安全面や健康面への影響を考える際に、重要な情報が記載されていますので、取り扱う全ての化学物質について把握しておくことをお勧めします。
リスク判定の実施については、数多くのツールがインターネット上に公開されていますので、そちらを利用することで作業が進められます。厚生労働省のホームページにてツールは用意されていますが、筑波大学や福井大学にて提供されているツールが使いやすく感じました。
リスクを低減するための一般的な処置は以下の通りとなっており、これらの処置を組合せながら、可能な限りリスクの低減を図っていきます。
また、化学物質のリスクアセスメントが対象になっている事業所については、化学物質管理者を選任する必要があり、化学物質管理者については、化学物質のラベル・SDS等の確認やリスクアセスメントの実施、ばく露防止措置の実施など、化学物質に関わる自律的な管理を適切に実施することが求められています。
保護具の着用が必要な事業所については、保護具着用管理責任者の選任も必要となり、保護具着用管理責任者については、保護具の適正な選択や労働者の保護具の適正な使用、保護具の保守管理の職務が求められています。
リスクアセスメントの実施後は、化学物質の適切な運用がなされ、労働災害の低減が図られているかと思います。その後は設定したリスク低減の措置が機能しているか定期的に確認し、追加の措置が必要であれば随時見直しをおこなうことになります。その際に作業箇所の作業環境測定をどのように計画するか等お困りの際は、是非とも弊社へご相談ください。
■資料
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について(基発0531第9号 令和4年5月31日)
労働安全衛生法の新たな化学物質 規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要
独立行政法人製品評価技術基盤機構 化審法データベース
■リスクアセスメントツール
厚生労働省版 コントロール・バンディング
筑波大学 新JISHA方式 化学物質リスクアセスメントプログラム [たなご]
福井大学 化学物質リスクアセスメント