株式会社エコニクス 顧問
藤巻 裕蔵
エコニュースVol.272『北海道における鳥類の分布型1』では、北海道の鳥類の分布型にはおもに三つあることを述べ、そのうち北海道全域に分布する型(例としてアオジを挙げた)を紹介しました。今回は二番目のおもに西部(大雪山系と日高山脈を境にして)に分布する型について述べます。
このグループの代表的なものはクロツグミです。クロツグミは夏鳥で、北海道には5月上旬~中旬に渡来し、おもに標高600m以下の森林に生息します(藤巻 2008)。図1(藤巻(2008)の記録にその他の文献や個人などの記録を追加)は北海道におけるクロツグミの分布を示したものです。クロツグミはかつて東部ではほとんど見られなかったのですが、1990年代後半から東部でも観察される例が増えており、分布図では東部でも観察された区画がかなり見られます。しかし、出現頻度は西部に比べると非常に低く、事実上はおもに西部に分布すると言ってよいでしょう。このほか、このグループに入る種には、ハチクマ(北海道猛禽類研究会 2013)、ツバメ、メジロ、オオヨシキリなどがいます。日高山脈と大雪山系は、一部の鳥類にとって分布境界になっているようです。
この分布型がやや変化した型として、十勝地方までは西部と同じように生息していますが、釧路・根室地方になると生息数が少なくなる種がいます。ヒヨドリ(藤巻 2004)とモズがそうで、白糠丘陵より東になると出現率が低くなります。ヒヨドリでは出現率と温量指数(温かさの指数)との間には相関関係がありますし(藤巻 2004)、ほかの留鳥に比べると「寒がり」ですので(藤巻 2012)、東部にあまり分布していません。また、生息数も少なくなります。このような現象の一要因として気象条件が考えられます。他の種についてはよくわかりませんが、同様のことも考えられます。
なお、クロツグミ(図1)以外の種の分布図については、北海道鳥類データベース・藤巻版(http://bonasa4979.sakura.ne.jp)を見てください。
図1 北海道における繁殖期のクロツグミの分布
●=クロツグミの記録あり,〇=調査・観察したが,クロツグミが記録されず,・=調査・観察記録がない.
<引用文献>
藤巻裕蔵(2004)北海道中部・南東部におけるヒヨドリの繁殖期の生息状況. Strix 19:1-9.
藤巻裕蔵(2008)中部・南東部におけるクロツグミとアカハラの生息状況. Strix 26:115-125.
藤巻裕蔵(2012)低温での鳥類の姿勢. 山階鳥類学雑誌. 44:27-30.
北海道猛禽類研究会(2013)北海道の猛禽類 2013年版. 北海道猛禽類研究会, 美唄.