≪豊かな自然に囲まれた美しい北海道の海≫といったイメージを持つ方には、少しイガイなお話です。実は北海道の海には、我々人間の活動によって海外からやってきた≪外来種≫が身近なところにまで迫ってきています。
株式会社エコニクス 電力環境部
泊発電所担当チーム 土門 史記
「海の厄介者」ムラサキイガイって?
筆者が今回取り上げるのは、そんな海の厄介者のひとつ「ムラサキイガイ」についての話題です。本来「ムラサキイガイ」は地中海沿岸を原産とする種ですが、日本では1930年代には確認されていたとの説があり1)、その後全国に急速に拡大し、現在では国際自然保護連合(IUCN)の「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定されている古参の外来種です。特にここ北海道では、もともと生息していた在来種のキタノムラサキイガイやムラサキインコガイ、イガイの生息域を脅かして急速に侵食(交代)しつつあるほか、交雑や、養殖施設・取水管・漁網・船舶等への付着によって「海の厄介者」とされてきました。

どうやって外来種は入ってくる?
では、こうした外来種はどうやって日本や北海道の海に入り込むのでしょうか? 主なルートとしては、空荷の貨物船等が船体を安定させるために積み込む「バラスト水(海水)」の中に目に見えない幼生やプランクトンが紛れ込んで排出されることや、船底・船体に付着して移動してくること、二枚貝の種苗を移植した際に持ち込まれることなどが考えられています。
陸上の外来種と違い、海の中に潜む外来種は人の目につきにくく、広い海に散らばってしまった生物を根絶するのは想像しただけでも終わりのない戦い、正解のない無理難題となっています。
ただの厄介者なの?
一方で近年このムラサキイガイは「ただの厄介者」から「未利用資源」として評価が変わりつつあります。このムラサキイガイ、実はみなさんご存じの「ムール貝」として一般的に知られ、シーフードミックスやイタリアンの前菜にも使われる世界的に広く食用とされる、誰もが一度は食べたことがある身近な存在なのです。
北海道では余市町で2016年から北海道立総合研究機構、地元の漁協・飲食店の連携によって、ムラサキイガイの養殖事業が進められ、新たな地域ブランド「余市ムール」として注目を集めています。本場フランス・モンサンミッシェル産の品質を目指し4月~5月の身が詰まった産卵直前で漁獲することで、付着物が少なく綺麗な旨味たっぷりの貝が特徴とされています2)。
レストランシェフによる評価では味・身入り・風味も良く、本場にひけを取らないと高い評価を獲得し、商品価値の高さが認められているとのことです3)。
また、岩手県釜石市(唐丹町)では高水温に強いムラサキイガイの特性に着目し、2023年に専門の養殖組合を設立。ひらくとハート型に見えることから「はーとふるムール」としてブランド化しています。余市町の貝洗浄機をヒントに独自の洗浄機を開発するなど生産体制を試行錯誤しながら、首都圏への直販ルート開拓により、地元の取引価格を約3〜4倍に引き上げることに成功、全国青年・女性漁業者交流大会で最高賞に次ぐ水産庁長官賞を受賞しています4)。
さらには、水産資源としての価値のみに留まらず、豊富なアミノ酸やタウリンに注目され、ペットフードや動物の飼料、さらにはヘルスケア分野におけるサプリメントの原料、貝殻を土壌改良用の肥料や建築資材、バイオマスエネルギーへの変換等様々な分野で活用が進められています。
近年、ムラサキイガイのように「厄介者」として捨てられていた生物から新しい価値を見出す動きが注目されています。資源を循環させて環境を守りながら、同時に新しい利益も生み出すサーキュラーエコノミー(循環型経済)という考え方が浸透し、単に「ゴミを減らす」だけでなく、持続可能な成長を目指す仕組みにおいて、未利用の生物資源は、アイデアの宝庫と言えます。
ムラサキイガイはしばしば厄介者として扱われますが、その一方で、まだ十分に活用されていない価値を秘めている可能性があります。単なる駆除や廃棄にとどまらず、環境保全と地域経済の好循環につながる新たな活用方法を共に考えてみませんか。当社では、海洋生物に関する各種調査から環境課題の解決に向けたご提案まで幅広く対応しております。海に関するお困りごとや未利用資源の活用について、お気軽にご相談ください。
参考資料
1)石田 惣・岩崎敬二・桑原康裕(2005):ムラサキイガイの初侵入年代と分布拡大過程-古川田溝氏の標本による推断.Venus(日本貝類学会誌),64(3-4),151-159.
2)余市町ふるさと納税ガイド(2023)「北海道初!養殖のムール貝」, 余市町ふるさと納税ガイド, https://yoichi.furusato179.com/shungoyomi/2023/05/15/2023-05-mussels/
3)清水洋平(2018):「余市ムール」始まりました! ムールガイ養殖研究協議会の設立とこれまでの取り組みについて,『北水試だより』97 p28,北海道立総合研究機構水産研究本部.https://www.hro.or.jp/upload/41184/dayori977topics.pdf
4)釜石新聞NewS(2026):「おいしい“ハート”届けます!釜石・唐丹町の漁師3人が養殖 海と人を結ぶムール貝」, かまいし情報ポータルサイト~縁とらんす.https://en-trance.jp/news/kamaishishinbun-news/49434.html


