海外輸出されるほどの生産量を誇るあの食材の危機?身近な食材からも感じられる北海道の海域環境変化
株式会社エコニクス 電力環境部
泊発電所担当チーム 土門 史記
北海道といえば新鮮な海の幸!その代表格といえば、カニ、コンブ、ウニ、サケ等様々な魚種が思い浮かぶことと思います。そんな水産大国北海道において、令和5年度の魚種別生産量の44%を占め、圧倒的1位に君臨する魚種を御存知でしょうか?
今回筆者が取り上げるのは寿司、バター焼き、干し貝柱等様々な料理で親しまれ、北海道漁業の根幹を成すと言っても過言ではない【ほたてがい】の話題です。

図1 海面漁業・養殖業生産量の魚種別構成割合
引用:農林水産省「農林水産統計 令和5年海面漁業・養殖業生産統計」
(令和6年度農林水産統計公表予定・結果(北海道):北海道農政事務所)
(https://www.maff.go.jp/hokkaido/toukei/kikaku/sokuho/attach/pdf/index-165.pdf)
北海道のホタテ漁は、獲る漁業から育てる漁業への転換が進んでおり、海面養殖が盛んに行われています。さらに、籠養殖等の様々な漁法が広い地域で行われており、一年を通して安定的に供給されています。
ホタテ養殖は、浮遊幼生を採取するところからスタートします。浮遊幼生は、目に見えないほどの小ささで、約40日間海中を浮遊しているため、籠養殖等では、養殖施設に採苗器を吊り下げて浮遊幼生を採取しています(図2)。その後、1~2ヶ月程度を採苗器の中で過ごし、稚貝へと成長したホタテを籠に収容して、成長にあわせ間引きや分散を繰り返しながら、2~3年をかけて漁獲サイズの成貝に育てます。このためホタテ稚貝の採苗量がホタテの漁獲量を左右する最も重要なポイントとなるのです。

図2 籠養殖施設への採苗器設置 概念図

図3 ホタテの採苗器 (筆者撮影)

図4 ホタテ籠養殖の1年
令和6年夏に道内各地でホタテの漁獲量を左右する稚貝の採苗量不足や大量斃死が発生し、壊滅的な状況と報じられたことをご存知でしょうか?
ホタテの稚貝は、基本的には各漁場で採苗されますが、確保できない場合は他地域の漁協から購入すること等で補われてきました。しかし、令和6年度には漁業者から「稚貝採りをしたが、何も採れず途中で止めた」、「ほとんど全滅」、「数年もこの状況が続くと立ち行かない」といった深刻な声が聞かれるほど、全道的な稚貝不足が問題となっています。そのため、稚貝確保に奔走する状況に陥っています。
稚貝の大量斃死や採苗量不足の要因としては、高水温、外敵生物による食害、成貝の生殖不良、稚貝の生育不良、水質悪化、病害、赤潮等が挙げられます。これらの要因が複合的に作用していると考えられていますが、明確な原因は特定されていません。このため、天然採苗に頼る生産者は常にリスクを抱えています。いずれにせよ、稚貝の安定確保が最も重要で、そのためには、最適な生育環境の解明や養殖環境の改善、人工種苗生産や健苗性強化の技術を確立することが喫緊の課題と考えます。

図5 漁業者によるホタテの採苗器作り (筆者撮影)
北海道におけるホタテ漁は、多くの地域で重要な漁業であると同時に、雇用の場ともなっており、【ほたてがい】は水産大国北海道の経済を左右するほどの重要な存在となっています。
近年のめまぐるしい海域環境の変化によって、今回取り上げた北海道産のホタテが食べられなくなる?危機だけでなく、磯焼けによるコンブ類の減産等、北海道の海域環境は多くの課題を抱えています。
当社は「調和ある環境保全と利用開発を事業として社会に貢献する」を使命とし、海域環境に適した天然資源の増養殖や新たな養殖の取り組みも支援しています。魚介類や海藻類の生息・生育環境の調査は、是非当社にお任せください。
<参考資料>
農林水産省「農林水産統計 令和5年海面漁業・養殖業生産統計
(令和6年度農林水産統計公表予定・結果(北海道):北海道農政事務所)(https://www.maff.go.jp/hokkaido/toukei/kikaku/sokuho/attach/pdf/index-165.pdf)