ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2019.09.01
ECONEWS vol.315

感覚量と刺激量

株式会社エコニクス 経営管理部
中舘 史行

 何らかのにおいを嗅ぐと、過去の記憶、ときには何十年も前の幼少期の記憶を鮮明に思い出した経験はありませんか?これを「プルースト効果」と呼びます。においと記憶は深く関係していて、あるテレビ番組での実験では、香り付き消しゴムのにおいを嗅ぎながら漢字を覚え、それと同じにおいを嗅ぎながら漢字テストを行ったところ、正解率が10%アップしたそうです。

 また、最近ではアルツハイマー型認知症の初期段階には、においを感じにくくなることもわかってきました。そしてアロマテラピー等で嗅覚をトレーニングすることで認知症が改善する、といった報告もあるようです。

 におい物質は40万種類以上あり、におい物質が混じりあうことで相加効果又は相乗効果が働き、においの印象がガラリと変わることは想像がつくかもしれません。ところがこの現象は、におい物質の濃度の違いによっても起こることがあります。例えば「スカトール」は、糞臭なのでとても嫌なにおいがしますが、薄めるとジャスミンのにおいになります。実際、ジャスミンに含まれているほか、香水には欠かせない物質でもあるそうです。さらに、シンナーのような刺激臭である「酢酸エチル」は、薄めていくと果物のようなにおいになります。

 においはとても複雑であるため、悪臭を規制するためには現行の22物質濃度だけでは限界があると考えられ、平成7年に悪臭防止法を改正し、臭気指数規制が導入されました。

 臭気指数とは、6人のパネラーに試料を嗅いでもらう判定試験で、試料を無臭空気で薄めていき、においを感じなくなるときの希釈倍率(臭気濃度)に10を乗じた値となります。北海道では、平成10年に札幌市が、平成24年に石狩市が導入しています。

 

臭気指数=10×log(臭気濃度)

 臭気指数を求めるために臭気判定士という国家資格があります。この資格は、筆記試験のほか、合格率95パーセントといわれている嗅覚検査に合格することで取得できます。この嗅覚検査は、5年に1度再検査を行い、合格者は免状を更新することができます。

 悪臭の調査を行う場合、必ずしも常時においを感じられるわけではありません。そのような時に一瞬だけ風向きの関係でにおうことがあり、その一瞬を逃さずにサンプリングをする必要があります。また、判定試験のときに効率よく行うために全員正解できる希釈倍率を複数つくらず、最小限の試験数で結果を求めるためにも、臭気判定士は正常な嗅覚が必要となります。

 悪臭対策を行ううえで知っておくべき法則として「ウェーバー・フェヒナーの法則」があります。

 エルンスト・ウェーバーというドイツの心理学者が行った実験により、人が(おもり)の変化を感じる際、「重さの変化は何グラム増えたかではなく、何倍になったか」と比に依存していることを発見しました。

 これは時計を見なくても、1分間と2分間の違いは感覚的にわかるけど、10分間と11分間の違いはわかりにくい、また10分と20分の違いはわかるけど、100分と110分の違いはわかりにくいように、ベースの量によって感じ取れる最小量が変わってくるというものです。

⊿R(弁別閾)/R(刺激量)=K(定数)

 このK(定数)をウェーバー比といいます。

 そして、グスタフ・フェヒナーは、刺激量(R)と感覚量(E)には対数関数の関係があるとし、これを「ウェーバー・フェヒナーの法則(単にフェヒナーの法則ともいう)」としました。

 ウェーバー・フェヒナーの法則から、におい(刺激量)は90パーセント脱臭したとしても、人には3分の2に減ったと感じる(感覚量)程度で、97パーセント脱臭すると、人は半分に減ったと感じ、99パーセント脱臭して、やっと3分の1程度に減ったと感じることになります。

 

E(感覚量)=C(定数)・log R(刺激量)

ウェーバー・フェヒナーの法則

 

 騒音や振動もこの感覚量の1つであるため、ウェーバー・フェヒナーの法則により、一定の基準値に対して何倍かを求めてその常用対数にしたものをdB(デシベル)として表しています。

 ほかにウェーバー・フェヒナーの法則で説明できることを考えてみたところ、視力検査において、視力1.0以降0.1刻みではなく、1.2、1.5、2.0となっていることも、ベースとなる量が大きくなるにつれ識別できる最小量が大きくなるためです。

 唐辛子の量と辛さの感じ方や砂糖の量と甘さの感じ方など、この法則に従うものはたくさんあるので、探してみると面白いかもしれません。