自然環境部 陸域担当チーム
福島 想
8月に入り、盛夏を迎えて暑い日が続いていますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。今回のエコ森林通信では、この暑い夏を乗り切る一つの手段として、「森林浴」の魅力をご紹介します。これを機に森林を活用し、その有用性を実感することで、森林の価値を広く認識していただけたら幸いです。
多くの人が、森の中へ入り涼しいと感じた経験があると思いますが、これは先入観ではありません。実際に森林内では、都市や農耕地、海岸等に比べ気温が低くなっているのです。では、なぜ森林内は涼しいのか?まずは、その理由をご説明します。
樹木の枝や葉は日光を遮断し、森林内の気温上昇を抑制します。また、植物は根から吸い上げた水分を葉から蒸発させ(蒸散)、その際に発生する気化熱の影響で周囲の温度が低下します。さらに、雨が降ると樹冠が緩衝材となり、雨水は葉や枝、複雑な形状をした幹をゆっくりと伝って流れるうちに一部が蒸発します。さらに森林内の地面では、堆積した落ち葉や枝が土壌を被覆しているおかげで、地表の温度上昇を抑え、土壌に貯えた水が徐々に蒸発するとともに地下にも浸透し、冷たい地下水が川へ流れ込みます【1】。このような作用が森林環境の避暑効果を高めており、私たちが森の中で涼しいと感じられる要因になります。
また、森林は私たちに精神的にも良い影響をもたらしてくれます。
「森林セラピー」という言葉をご存じでしょうか。森林セラピーとは、こころと身体の健康維持・増進や病気の予防を目的とした森林浴のことです。森の中で鳥の声や小川のせせらぎを聴いたり、木々や草花を眺めたり、木漏れ日に包まれることで、清々しい・心地よい気分になった経験はありませんか?実は森林浴によるストレス緩和効果は、科学的にも裏付けされています。
例えば、ストレスの代表的な測定指標の一つに唾液コルチゾールという、唾液中に含まれるホルモンがあります【2】。一般的に、唾液コルチゾールの濃度が高ければストレス度が高いと言われています。
そこで、森林部と都市部にそれぞれ被験者を配置し、15分間の座観(座って景観を眺める)を実施したところ、森林部で座観した被験者の唾液コルチゾール濃度は、都市部に比べて有意に下がっていました。脈拍数や血圧等の測定指標においても、森林部の方が有意に低下することが認められており、森林セラピーの生理的効果はエビデンスに基づいて立証されています【3】。
近年、生物多様性という言葉をよく耳にしますが、生物多様性が人間にもたらす自然の恵みを「生態系サービス」と呼びます。生態系サービスは、基盤サービス・供給サービス・調整サービス・文化的サービスの大きく4つに分類されます【4】。前3項は定量的に示せるのに対し、文化的サービスにおいては人の感覚的な項目になるため、評価が難しいとされていました。しかし、ここ数年の技術の進歩により、例示したように、生理的な反応を用いて数値化し、精神面の変化を表すことが可能となりました。
以上のように、今回題材に挙げた「森林浴」は、調整サービス(避暑作用)、文化的サービス(ストレス緩和作用)を気軽に体感できる身近なアクティビティだと思います。本号で述べた内容を踏まえ森の中で活動してみると、より効果を感じることができるかもしれません。
ぜひ、今夏は森林を大いに活用して、森林環境の様々な魅力を見出してみましょう。
【1】四国森林管理局/森のことを知りたい https://www.rinya.maff.go.jp/shikoku/policy/business/q_a/mori/
【2】ストレスホルモンを測る/労働安全衛生総合研究所 https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2016/87-column-2.html
【3】李 宙営 (2011)森林セラピーの生理的リラックス効果 ―4箇所でのフィールド実験の結果―.日本衛生学会誌,66巻(2011)4号
【4】生態系サービスの分類例-生物多様性センター https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html
生物多様性、J-クレジット、脱炭素、森林サービス、森林資源量、ドローン、森林浴、森林セラピー、生態系サービス、文化的サービス