エコ森林通信Vol.1でお伝えしましたとおり、私達が活動しているエコ森林は二酸化炭素の吸収で、わずかではありますが、気候変動緩和に貢献できていると考えています。エコ森林の環境への貢献方法は「植物による炭素固定」というオーソドックスな方法ですが、世界では様々な方法や技術の開発が進められています。今回は世界で進められている再生可能なエネルギー、持続可能性、気候変動の緩和に関する最近の技術やトレンドのうち、太陽光エネルギーについてご紹介します。
2021年4月、ドイツ憲法裁判所は、2030年までの温室効果ガス排出量の削減を定めた同国の気候保護法(2019年策定)について、膨大な排出量を削減するための負担を将来世代に転嫁しているとして、一部「違憲」との判断を下しました。つまり、気候変動が次の世代の⽣活を脅かしている以上、気候変動を防ぐために⼗分な⾏動をとらない政府は、若い世代の自由権を侵害しているので、違憲であると考えられています。
ドイツは、2030年までに温室効果ガスの排出量を55%(1990年度⽐)削減することを約束し、2050年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするという⻑期⽬標を掲げています(1)。しかし、今回の判決では、2045年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするよう、政府にさらに早期の削減を求めています(2)。今回のドイツの判決は、オランダやフランスでも同様に、政府の気候変動対策の遅れを指摘する判決が下されたことを受けたものです。これらの判決は、EU(欧州連合)27カ国の気候政策を変え、すでに活況を呈している再⽣可能エネルギー部⾨をさらに活性化させるでしょう。
図 2010年から2020年にかけてのEU(欧州連合)27カ国の電⼒発電に占める割合(%)
緑線=再⽣可能エネルギー、黒線=化⽯燃料、黒点線=⽯炭、緑点線=⾵⼒・太陽光
Ember社とAngora Energiewende社が行った調査より
2020年には、⾵⼒、太陽光、⽔⼒、バイオマスエネルギーなどの⾃然エネルギーがEU27カ国の電⼒の38%を発電していたのに対し、化⽯燃料は37%でした。欧州で再⽣可能エネルギーによる発電量が化⽯燃料による発電量を上回ったのは初めてのことです(3)(図1)。この年、英国では2カ月以上も、発電に石炭が使用されていない期間がありました。これは1882年に世界初の⽯炭⽕⼒発電所を開設して以来、最⻑の無⽯炭期間となります(4)。また、オーストリアとスウェーデンは⽯炭発電に⼀⻫に終⽌符を打ちました(5)。これらの出来事は、EU27カ国と英国が化⽯燃料からの迅速かつ恒久的な撤退に向けての転換点と言えるかもしれません。
⼀⽅、第6位の排出国であり(2018年時点)、世界第3位の経済⼤国(2019年時点)である⽇本は、他の先進国に比べて再⽣可能エネルギーの導⼊への取り組みが遅れています。2019年時点で依然として化⽯燃料が75%を占め、再⽣可能エネルギーは18.5%、原⼦⼒は6.5%にとどまっています。しかし、菅⾸相のもと、⽇本は2030年度の温室効果ガス排出量を46%(2013年度⽐)削減するという⽬標を掲げ、より環境に優しい未来に向けて努⼒を続けています(6)。
いずれにしても、全体的な傾向として、再⽣可能エネルギーの主⼒電源化に向けて様々な取り組みが⾏われています。以下では、その事例として、太陽光エネルギーに関する最新の技術を紹介します。
透明なソーラーパネル
ミシガン州⽴⼤学(MSU)の研究者は、あらゆるガラスからエネルギーを生み出せる可能性を秘めた初の完全透明ソーラーパネルを作成しました。透明なソーラーパネルは、可視光を通しつつ、⽬に⾒えない紫外線および⾚外線を吸収するように設計された有機塩で作られた太陽電池で構成されています。これらの透明なソーラーパネルは、オフィス、家庭、⾃動⾞のサンルーフあるいはスマートフォンに組み込むことが可能で、消費者が気づかないうちにエネルギーを発⽣させることができます。あるオランダのメーカーは、すでにヨーロッパのさまざまな建物にこの新技術を組み込んでいます。さらに、2020年から⽇本のinQs社がNTT社と共同で、独⾃の透明ソーラーパネルを販売する予定です。現時点では、従来のシリコン太陽電池に比べてエネルギー効率が劣るため、これまでの技術を置き換えるものではなく、追加するものだと考えられています。オフィスビルを例にとると、水平面(屋上等)にはシリコン太陽電池パネル、垂直面(窓等)には透明なソーラーパネルを設置し、スペースを有効に使ってエネルギーを生み出すことができるようになる日が来るかもしれません(7)。
太陽電池⽤ファブリック
太陽電池といえば、屋根の上に貼られた分厚いパネルを思い浮かべる⼈が多いのではないでしょうか。しかし、数年前からペロブスカイトという鉱物を使った次世代の太陽電池が研究されています。この鉱物は、その適応性において⾮常に汎⽤性があり、織物に印刷するためのインクや繊維にもなり得ます。2017年には、東京⼤学と理化学研究所の研究チームが、薄くて弾⼒性があり、さらに防⽔性にも優れた太陽電池⽤⽣地の開発に成功し、⾐服やテントなどへの応⽤が期待されています。埋め込まれた太陽電池は、⼼臓の⿎動などを継続的に監視したり、スマートフォンやタブレットなどの⼩型デバイスに電⼒を供給したりするウェアラブルセンサーの電源として重要な役割を果たす可能性があります。ペロブスカイト系太陽電池は、⼀定期間が経過すると鉛が漏れる危険性があると以前から指摘されていましたが、2020年、この問題を克服したと思われる新しい研究が発表され、鉛漏れのリスクを最⼩限に抑えることが可能になりました(8)。
ゲーム機
オランダと⽶国の研究者の共同研究によって、これまでの電池 を必要とせず永遠にプレイできるゲーム機が開発されました。 このゲーム機は電池の代わりに太陽光とユーザーのボタン⼊⼒ からエネルギーを回収します。ボタンを押したエネルギーが ゲームに必要なエネルギーに変換されるのです。これにより、 電池を交換したり充電したりする必要がありません。「持続可 能なゲーム機が現実のものとなり、私たちはその⽅向への⼤き な⼀歩を踏み出しました」と開発者は語っています(9)。 |
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(1) ‘Historic’ German ruling says climate goals not tough enough | Germany | The Guardian
(2) Germany to bring forward climate goals after constitutional court ruling | Germany | The Guardian
(3) The European Power Sector in 2020; by Angora Energiewende & Ember
(4) Britain goes coal free as renewables edge out fossil fuels – BBC News
(5) Austria's last coal-fired power station has closed down (cnbc.com)
(6) Japan pledges 46% greenhouse gas emissions cut by 2030 | The Japan Times
(7) Traverse, C. J., Pandey, R., Barr, M. C., Lunt, R. Emergence of highly transparent photovoltaics for distributed applications. Nature Energy Vol.2, 849-860 (2017)
(8) A Chemist and a Designer Team Up to Weave Solar Panels Into Fabric | Innovation | Smithsonian Magazine
(9) Battery-free Game Boy Runs Forever | News | Northwestern Engineering, Northwestern Un