自然環境部 海域担当チーム
工藤 俊樹
洋上風力発電による海棲哺乳類への影響調査手法として、目視観察調査の他に水中音響観測が挙げられます。
水中では音波は重要な情報伝達手段であり、小型鯨類は超音波を出して魚から跳ね返って来る「やまびこ(音の反響)」を聞くことで、餌の探索を行っています。頻繫に超音波を発する小型鯨類は音響観測に適した海棲哺乳類と言えます。水中音響観測はその音を観測して、小型鯨類を特定します。
また、定点式の水中音響観測では、目視観察の困難な荒天時や夜間の観測も可能であり、発見率の精度が高いことが知られています。
鯨類の水中音響観測には様々な音響データロガーが実用化されており、中でも小型鯨類の観測に特化したのがMMT社製のA-tag(Acoustic-tag)です。A-tagの特徴として、小型鯨類の生の鳴音をそのまま記録するのではなく、装置内で鳴音に相当する水中音響のみを処理して圧縮記録することが挙げられます。無圧縮型の音響データロガーでは鯨類の発した生の波形が記録されますが、記憶容量が膨大となり、小型鯨類の高周波音を長期間録音することが困難でした。これを解決するために開発されたのがA-tagであり、圧縮記録することで小型鯨類の観測に必要最小限の情報となる超音波パルスの音圧と受信時刻、音源方向の長期間記録が可能となりました。
洋上風力発電の影響調査では、目視観察と定点式のA-tagによる水中音響観測が一般的ですが、小型鯨類の行動・生態研究では小型のA-tagによるバイオロギング調査も行われております。
A-tagに記録された音響データの解析にはWavematrics社製の時系列解析ソフトIgor Proが使用されており、雑音を低減するプログラムが公開されています。雑音を低減した音響データが左下の図となり、その中から青枠のようなデータが小型鯨類の鳴音として選別されます。
選別した鳴音データの周波数特性から種類(科)が判別され、調査海域の目視調査結果と合わせれば、判別精度を高めることも可能となります。また、解析結果では下図のような出現回数や出現間隔、音響探索距離等が得られ、出現種が調査海域をどのように利用しているかが推察できるようになります。
弊社ではこのA-tagで得られた鳴音データから、小型鯨類の種類(科)の特定や出現状況等の解析を行っております。小型鯨類の鳴音解析でお困りの際はお気軽に相談ください。
参考文献
北海道大学水産学部練習船教科書編纂委員会(2019):水産科学・海洋環境科学実習.
赤松友成、木村里子、市川光太郎(2019):水中生物音響学―声で探る行動と生態―.
亀山紗穂、赤松友成、荒井修亮(2016):鳴音を用いた小型鯨類の種判別.
海棲哺乳類、小型鯨類、鳴音解析、音響データロガー、A-tag
やまびこ、目視調査、エコ二クス、北海道