北海道の周辺に生息する鯨類、鰭脚(ききゃく)類、海鳥たち。彼らと私たちの間で起こっていることについて調べてみました。
株式会社エコニクス 自然環境部
海域担当チーム 北浦 愛望
北海道周辺の海域は、寒流と暖流が交差する豊かな海洋環境に恵まれ、多様な海洋動物が生息しています。こうした自然の恵みの一方で、近年、海洋動物と人間との間でさまざまな問題が顕在化しており、共生のあり方が改めて問われています。
代表的な問題の一つは、海洋動物による漁業被害です。中でも顕著なのが、トドによる刺し網漁への被害です。北海道では年間約7.9億円の漁業被害が発生しており1)2)、特に今年の2月には増毛・留萌周辺海域で刺し網漁に被害が相次いだようです3)。トドは大型の鰭脚(ききゃく)類で、水族館でも見ることができます。野生の個体は網に掛かっているカレイやニシンを目当てに網を壊して捕食するため、刺し網に被害が出ています。

図1. トドによる沿岸漁業への被害の実態(トドの生態、漁業被害及び対策の概要(トドによる沿岸漁業への被害2))より引用)

図2. トドによる漁業被害の状況(北海道) (令和6年度知床世界自然遺産地域多利用型統合的海域管理計画定期報告書(案)4)より作成)
また、シャチによる漁業被害も話題になっています。シャチは北海道では観光資源の一つとして有名ですが、その一方で定置網などに侵入して水揚げ直前の魚を捕食するなど、道東周辺海域で漁業被害の問題が発生しています。釧路の昆布森漁協では1億円以上の被害が出ており5)、現在、研究機関による調査や、被害軽減を目的とした漁協主体の実証実験事業などに取り組んでいます5)6)7)。

図3. 歯型のついたカレイ(「ほっかいどう学」第37回8)より引用)

図4. 海藻をついばんで遊ぶシャチ(筆者撮影)
この他に、海洋プラスチックも問題になっています。海鳥や海洋動物がプラスチックごみを餌と間違えて食べてしまい、死亡する事例が多数報告されています。特に、世界中で確認されている海鳥約350種の内、97種の体内からプラスチックが見つかっており9)、北海道でも例外ではありません。
また、私たちに直接的な被害はまだ少ないものの、感染症の拡大リスクにも注意が必要です。今年5-6月にかけて北海道に来遊する一部の動物たちの間で高病原性鳥インフルエンザが流行したニュースがありました10)。ウミガラスや、ケイマフリ、ウミスズメ、ウトウ、オオセグロカモメなど様々な海鳥への感染が確認されただけでなく、海棲哺乳類のラッコやゴマフアザラシへの感染も確認されました11)。現在はほとんど落ち着いていますが、家畜の鶏への感染や私たちへの経口的な健康被害への懸念があります。

図5. 感染が確認された海鳥の一種(オオセグロカモメ)(筆者撮影)
このように、北海道の豊かな海は多くの生物がみられ、漁業や観光など私たちの暮らしにも密接にかかわっています。しかし、彼らとの共生には様々な課題が挙げられます。これを機に、彼らとの関係を考え、今後これらの課題に少しでも貢献できればと思います。
参考資料
1) 水産北海道. 2025. 「予算特別委員会(水林部) トド対策、秋サケ、中国輸出、養殖、海業推進など」.月刊水産北海道2025年7月号, pp23.
2) 水産庁. 2024. トドの生態、漁業被害及び対策の概要(トドによる沿岸漁業への被害). https://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/todohigaitaisaku.html (参照日:2025-07-10).
3) NHK NEWS WEB. 2025. 「留萌地方沿岸 カレイ漁最盛期も トド食害で影響深刻」. https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20250403/7000074498.html (参照日:2025-07-10).
4) 環境省. 2024. 令和6年度知床世界自然遺産地域多利用型統合的海域管理計画定期報告書(案), pp68.
5) テレ朝NEWS. 2023. 「“観光復活の起爆剤”シャチに期待の一方で漁業被害も 揺れる知床で生態調査に同行」. https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000302911.html (参照日:2025-07-10).
6) 水産新聞. 2025. 「日高中央カレイ刺網一時休漁、シャチ被害軽減へ実証実験」. https://suisan.jp/article-20424.html (参照日:2025-07-10).
7) 北海道新聞. 2024. 「超音波でシャチ撃退 漁業被害軽減へ日高中央漁協など11月から実証試験」. https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1056876/ (参照日:2025-07-10).
8) 北海道開発協会. 2024. 北海道のシャチ(後編)シャチをめぐる状況. 開発こうほう, 19-22.
9) 公益財団法人日本野鳥の会. 「海洋プラスチックゴミから海鳥を守ろう」.
https://www.wbsj.org/activity/spread-and-education/toriino/toriino-kyozon/toriino-report51/(参照日:2025-07-10).
10) 読売新聞オンライン. 2025. 「鳥インフル、北海道で新たに野鳥8種の感染確認…絶滅危惧種も3種」. https://www.yomiuri.co.jp/national/20250521-OYT1T50033/ (参照日:2025-07-10).
11) 北海道NEWS WEB. 2025. 「根室で鳥インフル感染の海鳥を多数確認 繁殖期前に拡大懸念」. https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20250514/7000075368.html (参照日:2025-07-10).