ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2023.06.01
ECONEWS vol.360

海洋深層水

株式会社エコニクス 自然環境部

海域担当チーム 筒井 浩之

 

 海洋深層水という言葉を聞いた事のある方も多いと思います。

 最近、北海道ではあまり聞かなくなった海洋深層水ですが、海洋深層水が注目され始めた2000年ころと比べて全国の取水施設がかなり増えており、様々な利活用がされています。今回は海洋深層水がどのような海水で、いつ頃から水産以外の分野で利用が始まったのか復習を兼ねて紹介したいと思います。

 海洋深層水は、一般に、太陽の光が届かない200m以深の海水で、富栄養性、清浄性、低水温性、水質安定性の特性を有していると言われています。また、「光合成による有機物生産よりも有機物の分解が卓越し、かつ、鉛直混合や人為の影響が少ない、補償深度以深の資源性の高い海水」と海洋深層水利用学会は定義づけています。

 一方、海洋学上の深層水は、グリーンランドの沖等で海底に沈みこんだ海水がおよそ2000年の年月をかけて世界を循環している海水のことを指します。最初のころはどちらもよくつかわれたので、現在色々なところで利用されている海洋深層水と海洋学でいう深層水とで混乱された方もいらっしゃったのではないでしょうか。

 

表 海洋深層水の特徴

富栄養性 植物の成長に欠かすことのできない無機栄養塩類(硝酸塩、リン酸塩など)が豊富に含まれています。
清浄性 細菌類が少なく、陸水や大気からの化学物質や病原性微生物による汚染の可能性も少なくなっています。
低水温性 太陽の輻射を受ける海面に近い表層の海水に比べて、年間を通じて水温が低くなっています。
水質安定性 海水として無機化が進んでおり、水質が物理・化学的および微生物学的に安定しています。また水質の変動が小さく、年間を通じてほぼ安定しています。

海洋深層水利用学会のホームページより作成

 

 海洋深層水の利用は1980年頃にハワイで海洋温度差発電や冷房のための取水施設が整備されたのが最初と聞いています。日本では1989年に高知県室戸市に、1996年に富山県滑川市に施設が整備されました。その後、高知県で海洋深層水を使用した食品や飲料、化粧品など様々な製品が販売され、話題になっていたように記憶しています。その少し後には北海道でも、海洋深層水入りのパンやミネラルウォーター、焼酎やビール(発泡酒だったかもしれません)などが普通に店頭で見られるようになったのを覚えています。

 このころから全国各地に取水施設が整備され、取水施設の立地や海洋深層水の性質の違いによって様々な利活用や研究が行われています。

 北海道では、2003年に岩内町と八雲町(旧熊石町)、2006年に羅臼町の3箇所で取水施設が整備されました。このころ、弊社も取水施設整備に向けた調査や利活用に向けた検討など、色々なお手伝いをさせていただきました。現在は取水した海洋深層水の水質分析などのお手伝いをしております。今後、海洋深層水を使った水産や環境などの分野で、地元と一体になって海洋深層水の新たな利用方法の検討や地域を活性化させる事業を創り出すお手伝いができることを期待しつつ、これからも海洋深層水について勉強していかなければならないと思っています。

 

表 全国の海洋深層水取水施設

事業主体・施設名

所在地
知床らうす深層水取水施設 北海道目梨郡羅臼町
岩内海洋深層水分水施設(地場産業サポートセンター) 北海道岩内郡岩内町
熊石海洋深層水総合交流施設 北海道二海郡八雲町
佐渡海洋深層水利活用施設 新潟県佐渡市
能登海洋深層水施設 石川県鳳珠郡能登町
富山県農林水産総合研究センター 水産研究所 富山県滑川市高塚
滑川海洋深層水分水施設アクアポケット 富山県滑川市川新
入善海洋深層水活用施設 富山県下新川郡入善町
株式会社赤沢温泉郷 海洋深層水赤沢工場 静岡県伊東市赤沢
駿河湾深層水関連施設 静岡県焼津市
みえ尾鷲海洋深層水アクアステーション 三重県尾鷲市
高知県海洋深層水研究所 高知県室戸市室戸岬町
室戸海洋深層水アクア・ファーム 高知県室戸市室戸岬町
こしき海洋深層水株式会社 鹿児島県薩摩川内市下甑町
沖縄県海洋深層水研究所 沖縄県島尻郡久米島町

海洋深層水利用学会のホームページより一部改変