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2023.01.01
ECONEWS vol.355

磯焼けの要因について

株式会社 エコニクス
電力環境部 村上 俊哉

 自然景観とは?と問われて皆さんがイメージする景観は、山が森林で覆われている自然豊かな風景を想い描かれると思いますが、私は皆さんとは少し異なり、仕事柄、沿岸域に繁茂する一面の海藻群落を想像してしまいます(写真.1(左側))。

今回ご紹介する磯焼けとは、森林が山火事などで一面焼け野原になるのと同様に、沿岸域においても海藻群落が消失してしまう状態を云います。

 
写真.1 海藻群落と磯焼け

 簡単に磯焼けの要因を整理しますと物理的要因・化学的要因・生物的要因の3つに分類することができます。物理的な要因には、波浪による沿岸侵食、漂砂による表面剥離、濁りによる光合成阻害、浮泥による付着阻害、化学的な要因には海域の栄養塩濃度の低下(貧栄養化)に伴う海藻の成長不良(栄養不足)、海藻の成長を阻害する化学物質の影響などが挙げられます。生物的な要因としては、ウニ類や小型巻貝類、魚類などの藻食生物による食害(北海道ではキタムラサキウニを中心としたウニ類の食圧が主要因ですが、西日本以南の沿岸域ではアイゴ、イスズミ、ブダイなどの藻食性魚類による食害も大きい)、無節サンゴモなどの優占が挙げられます。

北海道の日本海側では、写真.1(右側)のように、無節サンゴモとキタムラサキウニが優占している磯焼け場を多く目にすることができます。

実はキタムラサキウニと無節サンゴモはある種の共存共栄関係があり、無節サンゴモの生態的特徴からこの関係を整理することができます。無節サンゴモはウニ類の食害に耐える適応力があり、波浪や漂砂などの物理的な撹乱や栄養塩濃度の低下にも強い耐性を有しています。さらに写真.1(右側)のように無節サンゴモが岩盤一面を覆うことにより、藻体内に含有するジブロモメタンがキタムラサキウニの浮遊幼生を誘引して大量発生を促し磯焼けは持続します。また、写真.2はキタムラサキウニによる食害と磯焼けが持続する海中景観を示しています。海藻群落が形成されていてもキタムラサキウニの食害により藻場は消失しますが、無節サンゴモはキタムラサキウニの食害に負けることなく生残します。

 
写真.2 キタムラサキウニによる食害と磯焼けが持続する海中景観

また、磯焼けの要因には私たち人間活動に伴う影響も無視できません。例えば、浅海域の埋め立てなど開発行為による生息基質の減少や防波堤整備による海域の静穏化、内湾域における生活排水由来の窒素・リン流入や農地からの農薬、除草剤を含む人工化学物質増加による海域の富栄養化、ダムや堰堤建設由来の浮泥流出による海藻の付着阻害などが挙げられます。また、排水処理施設などからの残留塩素、環境ホルモンなどは海藻の成長阻害、地球温暖化による海水温の上昇はコンブ科植物が衰退し易くなるなど、私たちの日常的な人間活動も磯焼けに繋がっています。

水産庁では2007年度より「大規模磯焼け対策促進事業」をスタートさせています。磯焼け対策の基本はあくまでも藻場形成阻害要因の除去・緩和で、これを成功させるためには、地域で異なる要因特定のための簡易調査や実験、藻場の現況と事業成果のモニタリング、そして、さらなる環境悪化を招かないためのソフト技術の導入が重要とされています。

海に囲まれた日本では、身近な海を豊かにしたいと考えている企業や人も多いです。漁業者・行政・専門家のみでなく、多くの方々の知恵と勇気と力を結集した行動が実を結び、沿岸環境の保全に繋がることを願ってやみません。

参考資料

1)磯焼けの生態 水産業関係試験研究推進会議 資源増殖部会 1994.4.1 水産庁東北区水産研究所 三本菅 善昭

2)人と海洋の共生をめざして 海洋政策研究所 第220号(2009.10.05発行)磯焼け対策ガイドラインとその後の動き 東京海洋大学海洋科学部准教授 藤田 大介 https://www.spf.org/opri/newsletter/220_1.html