ECO TOPICSエコニクスからの情報発信
エコニクスからの情報発信
2019.11.01
ECONEWS vol.317

稚ナマコを血まなこになって探す?

株式会社エコニクス 環境事業部
技術向上担当 西川 明豪

 

 ナマコは、古来より滋養強壮、皮膚病薬として利用され、中国では宮廷料理としてフカヒレ、アワビなどと同様に乾燥ナマコが高級食材として利用されています。近年では、中国の経済発展と共にナマコの需要が増加し、価格も上昇しています。

 中でも、北海道産のナマコは(いぼ)()ちが良く、特に高値で取引される水産物となり、これによって北海道各地でナマコの漁獲圧が上昇し、資源の枯渇が懸念されるようになってきました。

 海の環境を見つめる弊社にとっても、ナマコ資源量を含めたナマコの生息環境を守っていく事は重要であると考え、各地でおこなわれているナマコ資源の維持・増大に貢献できるよう、下記のような様々な取り組みを支援しています。

 

●ナマコの調査

 ナマコは、ウニやヒトデと同じ棘皮動物門に属する生物で、3年で20cm程度の大きさになります。体の腹面には管足と呼ばれる吸盤状の無数の足があり、これを動かして海底をゆっくりと移動します。餌は砂・泥・貝殻片などと共に珪藻類、海藻、小型の貝類、コペポーダ、アマモの葉片、木片・砂泥中の有機物、甲殻類などです。海底の砂泥をそのまま吸い込み、体内の消化管を通過する間に餌を消化吸収し、残った砂などはそのまま排出します。よってナマコの主な生息場所は、岩盤・転石と砂が入り混じった場所や、浮泥などが堆積しやすい構造物の上などになってきます。

 ナマコの資源量を把握するためには、広い範囲(数百メートル、数キロメートル単位)を調査する必要があります。海の中にいるこのような生物の量を簡単に把握する方法は今のところ無く、弊社ではダイバーによる目視や採取での調査をメインでおこなっています。海の中に調査区域を面状に設定し、その中を等間隔に調査測線を区切ったり、底質や水深別に代表点を設定するといった手法を取ります。取得したデータの解析をおこない、調査区域内に生息するナマコの量を推定します。

 


北海道日本海のマナマコ

 

●稚ナマコの調査

 稚ナマコの分布量を把握する方法は、こちらもダイバーによる目視で確認する方法しかありません。天然の稚ナマコは、2週間程度の浮遊幼生期間を経てから着底するため、かなり広範囲(数キロ~数十キロ)に拡散します。また、1cm程度の大きさになるまで3ヵ月程度かかるため、ダイバーが目視できる大きさまで待つ必要もあります。加えて、稚ナマコは光を嫌って石や岩の陰に隠れてしまうため、このような稚ナマコの特性を熟知したダイバーが探索する必要があり、ダイバー目視による稚ナマコ調査は困難を極めます。しかしながら種苗を購入して放流する事業では、その放流効果を何らかの方法で確認する事が求められます。現在は漁獲したナマコが天然個体か放流個体かを確認できる有効な手法がDNAによる判定ぐらいしかないため、海底に稚ナマコの生息基質を設置し、そこに種苗を放流してから一定期間経過後に再度放流場所で追跡調査をおこない、種苗が生き残って成長している状況を確認します。その際にも、ダイバーが稚ナマコを血まなこになって調査しないと見落としてしまうため注意が必要です。

 

●ナマコ種苗生産と浜の本気

 弊社では、地元で種苗生産をおこない、できる限り数多くの種苗を放流できるようにするための取り組みを支援しています。ナマコの種苗生産のうち、幼生が着底するまでの工程は、事業化が進んでいるウニの種苗生産工程と酷似しています。この手法を応用することで、比較的簡易で安価な設備にて地元での種苗生産が可能になります。

 私自身はこの取り組みにここ数年携わってきました。その中で漁業者の皆さんは、ナマコ資源量の減少に非常な危機感を持たれており、資源増大策を真剣に検討する中で、継続的な種苗放流が最も重要と考えています。また、種苗の放流をおこなうだけではなく、自分たちでできることは自分たちでやっていこうという熱い思いを抱いています。そんな漁業者の皆さんの、浜の本気を支援したい、そんな思いでここ数年は地元漁業者による種苗生産およびこれに関連するナマコ資源増大事業に携わってきました。

 

 ナマコの調査手法、種苗生産など、まだまだ技術的に難しい問題が残されているものも多くありますが、少しずつ技術は進歩してきています。公的研究機関などにおいても様々な研究が進められており、これら研究成果の優れた部分を浜で活用できる形にすることも弊社の役割ではないかと考えております。

 

 実際にナマコ資源量が目に見える形で増えるのは先になるかもしれませんが、いつの日か「エコニクスのおかげでナマコが増えた!」と漁業者の皆さんに言ってもらえることを目指し、これからも業務を通して地域貢献していきたいと思います。