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2021.07.01
ECONEWS vol.337

藻場を工学的に評価する技術(後編)

株式会社エコニクス 環境事業部
海域環境チーム 峰 寛明

1. はじめに

 前号より2号に渡り、北海道の磯焼け海域におけるコンブ分布の着生要因を探るため、物理環境、特に波高の観点からの推定を試みています。今回は数値計算とその評価です。

2. 数値計算の結果

 海域の波高分布をコンピュータシミュレーションで再現しました。

 計算方法はエネルギー平衡方程式と言われる、広域の波高分布について屈折や多方向不規則波を考慮して計算できる手法です。これを用い、沖側に侵入波の条件を入力し、波高の分布を計算します。次に、波高は微小振幅波理論という計算体系により、波高、周期、海底面水深から計算メッシュ上の海底面の流速振幅を計算します。流速振幅を川俣(2001)による流速とウニの摂餌圧の関係式に適用して摂餌圧の有無を評価し、摂餌圧が一定の値以下となる水深範囲が藻場の推定範囲となりました。図1は計算による波高分布の例です。図中の矢印は波向きベクトルと言い、波が進行する方向と波高の高さを表しています。西から進行した波は西側の陸地によって遮蔽されるためその陰となる範囲では波高は低くなります。波の向きは徐々に屈折し、海岸付近では海岸線に対して直角に進行します。

図1 シミュレーション結果例(波高分布図)


 ところで、波高は1年の中で大きく変動しますので、どの季節の波高をベースにするかが重要になります。これについては様々な研究者の見解から、春季の波高、または1年の中央値を基本とすることが多いようです。今回算出したこの海域では両者が偶然一致しているので、春季を用いています。

 このように求めた推定分布水深と、現地調査で計測した実際の海藻分布範囲の関係(実測最大水深)を散布図にしたところ、図2のようになりました。これをみると実測分布が水深0m~4m程度までは推定水深と比較的良い相関関係にあり、計算による推定が使えることがわかります。対して実際の分布水深が5mより深かった海域では計算による推定は相関があまりよくありません。

 相関が良くない場所の特徴を見てみると、先に示した海域の東側の範囲が相当します。この範囲はホンダワラ類が主体であることに加え、沖合の底質が主に砂であること、すぐ近くに非常に大きな河口があることが特徴的でした。沖合の砂はこの河口の影響もありますが、ウニは一般的に砂の上には分布しませんので摂餌の脅威となるウニがおらず、波浪流速の影響も関与しないため波高計算とは一致しません。また河口の近くにあるため栄養塩類が豊富で海藻類の成長が良いことも関係していると思われます。このように、摂餌圧による分布水深と実際の分布水深が一致しない海域では藻場の制限要因が摂餌圧以外にあることがわかることから、磯焼けの要因推定に波浪計算が有効なことがわかります。

図2 藻場分布推定値と実測値の関係(峰他2001)

3.藻場回復に向けて

 このように、コンピュータシミュレーションと簡易な現地調査でおおよその藻場分布や、藻場形成の要因を広範囲で推定することができるようになりました。食圧による制限範囲の計算と可視化は新しい方法ではなく、水産庁の磯焼け対策ガイドラインなどでも紹介されています。今後はこれらをどう活用するかが重要になります。

 一般に磯焼け海域で藻場を造成するためには、藻場の制限要因の解消が基本です。当海域の西側のようなウニの摂餌圧で藻場分布が推定できる場所では、ウニの摂餌圧を抑制することで分布水深を広げることができるようになります。東側のようなウニの摂餌圧がもともと高くない場所では、砂によって基質が覆われたり小型紅藻類との競合が生じることがあります。この場合、漂砂に対応した足のある藻礁の設置や岩盤清掃などで基質を提供、更新することが有効です。このように数値として磯焼けの要因を客観的に評価することで計画的な磯焼け対策を講じることができると思われます。

 近年は衛星画像やドローンなど広範囲で藻場を計測するICT技術が進んできたので、これらの計測技術を取り込んでより効果的な磯焼け対策と効率的な計画づくりに発展させたいと考えています。

川俣 茂(2001):北日本沿岸におけるウニおよびアワビの摂食に及ぼす波浪の影響とその評価, 水産総合研究センター研究報告(1),pp.59-107.
桑原久美・金田友紀・川井唯史 (2000):北海道南西部磯焼け地帯の囲い礁によるホソメコンブ群落の形成条件,海岸工学論文集,第47巻, pp. 1181-1185.
財団法人室蘭テクノセンター(2011):農工循環資源を用いた亜寒帯沿岸域藻類によるCO2吸収実証モデル事業報告書.
水産庁(2021) 第3版 磯焼け対策ガイドライン
峰 寛明・高橋和寛・山下俊彦(2001):波浪・底質環境の異なる海域における大型海藻の分布特性,海岸工学論文集,第48巻,pp.1171-1175.