これからの地域とビジネスのあり方
株式会社エコニクス 自然環境部
陸域担当チーム 渡邉 香織
近年、気候変動や生物多様性の損失が深刻化する中で、企業にも自然環境により踏み込んだ取り組みが求められています。そうした中で注目されているのが「ネイチャーポジティブ」という考え方です。これは、自然への負荷を減らすだけでなく、自然を回復・再生させ、プラスの状態に転じていくことを目指すアプローチです。
私たちはこのネイチャーポジティブの視点が、これからの地域や産業の持続性を考える上で、非常に重要なテーマだと感じています。
1.農業が持つ二面性
農業は、人々の食を支える基盤である一方で、世界の温室効果ガス排出量の約2割、淡水使用量の約7割を占めるなど、自然環境に大きな影響を与えてきました。また、農地の拡大や集約化は、生物多様性の損失とも密接に関係しています。しかし同時に、土壌や生態系の管理次第では、環境負荷を抑えるだけでなく、自然を回復・再生させる役割を果たす可能性も秘めています。

2.ネイチャーポジティブな農業とは
私たちが注目しているネイチャーポジティブな農業は、自然を守ることと生産活動を対立させるのではなく、両立させていく点に特徴があります。具体的には、次のような視点が挙げられます。
・土壌の健全性を高め、微生物や昆虫などの生態系を豊かにすること
・農地を「単なる生産の場」ではなく、地域の自然資本として捉えること
・化学的投入材への過度な依存を減らし、自然の循環を活かすこと
・生物多様性の保全と農業経営の安定を両立させること
こうした取り組みの一例として、「不耕起栽培」があります。不耕起栽培は、土壌を耕さずに作物を育てることで、土壌構造や微生物の多様性を保ち、炭素の土壌固定を促進します。これにより、土壌の健全性を高めながら、温室効果ガスの排出量削減や生態系の回復にもつながると期待されています。
これらは必ずしも最先端技術だけで実現されるものではなく、地域に根ざした知恵や小規模な実践、試行錯誤の積み重ねも重要な要素だと考えています。

3.ビジネスと地域への可能性
こうしたネイチャーポジティブな農業への視点は、個人の問題意識にとどまらず、当社が事業を通じて地域や社会とどのように関わっていくかを考える上でも、重要な示唆を与えてくれます。
ネイチャーポジティブな取り組みは、環境配慮という枠を超え、
・地域ブランドや企業価値の向上
・環境価値を含めた新たな評価軸の創出
(※環境への負荷が少ないかどうかだけでなく、土壌の健全性の向上や生物多様性の回復など、自然を豊かにする働きそのものを価値として捉え、事業や取り組みの評価に含めていくこと)
・社会課題解決型ビジネスへの展開
といった形で、新たなビジネス価値につながる可能性を持っています。
4.これからに向けて
農業とネイチャーポジティブは、一部の先進的な取り組みだけの話ではなく、今後、あらゆる地域や産業に関わる共通テーマになっていくと考えています。当社としても、自然と共生する視点を大切にしながら、農業現場や地域との対話を重ね、どのような関わり方ができるのかを探っていきます。
今後も、農業と自然の関係性、そしてそこから生まれる新しい価値について、継続的に発信していく予定です。
参考資料
農山漁村文化協会(編).(2025). 『耕さない農業入門講座 草と生きものを活かす新しい不耕起栽培へ』. 農山漁村文化協会.
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
https://www.ipcc.ch/srccl/
※農業・林業・土地利用(AFOLU)分野が気候変動に与える影響、温室効果ガス排出量に占める割合に関する国際的評価
FAO(国連食糧農業機関)
https://www.fao.org/climate-change/en/
https://www.fao.org/aquastat/en/
※農業と気候変動の関係、世界の淡水使用量に占める農業利用(約70%)に関する統計
IPBES(生物多様性及び生態系サービス政府間科学政策プラットフォーム)
https://www.ipbes.net/global-assessment
※農地拡大・集約化と生物多様性損失の関係に関する包括的評価

