株式会社エコニクス 顧問
佐々木 達
昆虫類、軟体動物に次ぐ種の多様性を持っている魚類では、親子でまったく形体が異なる種が多数生息しています。これは、魚の特異的な生活史からきています。
多くの魚類は、生まれてから数週間から数ヶ月間の初期にプランクトン(浮遊した)生活を過ごした後、幼期から成体に短期間で生育するからです。
魚類の初期生活史から見てみると、サケのように形態・色彩などが未発達な状況から、ほぼ直進的に成体形に発達する「直達発育」タイプと、体の全体あるいは一部(形態・構造・大きさ・色彩など)が幼期において成体とは異なる方向に、あるいは同じ方向でも成体より過度に発達して、その後にそれが変化して成体に近い状況になる「変態を経過する発育」を過ごす二つのタイプに分かれます(内田、1964)。今回はこの魚類の「変態」についてのお話です。
昆虫類も変態を行いますが、変態の持っている意味合いが昆虫と魚類では異なっています。昆虫類は成長する幼虫から成長を停止し繁殖する成虫へ変態しますが、魚類の変態はさらに成長するための変態です。変態後の幼・稚魚期が魚の一生のうちでもっとも成長が盛んな時期です。
魚類の変態には、再演性変態と後発生変態のふたつのタイプがあります(内田、1964)。
再演性変態はヒラメ、ハタハタなどに見られるもので、これら魚種の進化の過程が生活史のうちに現れていると考えられるものです。
ヒラメを見てみると、水中を遊泳している稚魚の眼は左右に一つずつあり左右対称形をしていますが、その後右目が左側に移行し左右不対称になります。これはヒラメの祖先が、サケやタイなどと同じく左右対称な眼をもっていた現われです。
一方、後発生変態はフエダイ科やソコイワシ類などにみられ、魚種の進化とは関係なく、特殊な形態をしています。これは特殊な生活様式への適応と考えられます。その例としてギンソコイワシを示します。
(体長:144.5mm、水産総合研究センター,1983)
ギンソコイワシ稚魚にみられる眼柄の伸長は、外洋の中・深層に生息する魚に特異的に見られることから、この環境に適応した結果と考えられます。
表層から深海まで、暖かい海から南極海まで非常に多様な環境に生息している魚類ですので、上述した魚の他にも有名なウナギ目魚類に見られるLeptocephalus幼生(柳の葉のような形態で鋭い歯をもっている)など特殊な形態、名称を持つ稚魚がたくさん生息しています。
次の機会には、これらの魚を紹介していきたいと思います。
<参考文献>
内田恵太郎(1963)稚魚の形態・生態と系統.動物分類学会会報,30:14-16.
沖山宗雄 編(1988)日本産稚魚図鑑.東海大学出版会,東京,1154.
水産総合研究センター(1983)スリナム・ギアナの魚類