株式会社エコニクス 環境事業部
陸域環境チーム 加藤 淳子
陸域環境チームの仕事内容は、野生生物がどこに生育・生息しているかを現地調査で確認し、開発事業によりどれくらい野生生物の生育・生息環境が失われるのかを予測し、保全対策を検討するといったことを行っています。従って、現地調査においては野生生物が生育・生息するための環境条件について、しっかり把握することが重要となります。
私たちが引越しをする際には、より良い物件を探しますが、駅に近い方がいいとか、スーパーやコンビニが近いといいとか、人によって条件が異なります。それは野生生物にも言えることで、この湿った土壌がいいだとか、日当たりがいいところがいいだとか、水辺が近くになければ駄目等、生物によって様々な条件が存在するのです。その条件が多ければ多いほど、当然のことながら適する環境というのは限られてきます。
しかしながら、現地調査は時間や予算に制限があることや、立ち入れない場所がある等、全てを把握するには限界があります。そこで、限られた現地調査の結果を活用し、野生生物の生育・生息地について予測する研究が行われています。近年はコンピュータの性能が向上し、面的なデジタルデータの整備も進んでいることから、高度な解析が行えるようになりました。野生生物の生育・生息地を予測する解析手法は数多く存在し、具体的にはロジスティック回帰モデルやGARP、BRT、Maxent等があります。
今回は、Maxentによってエゾサンショウウオの産卵適地を推定した結果をご紹介します。Maxentは最大エントロピー原理を利用して、現地調査で得られた動植物の確認位置と環境データからその動植物の生息適地を推測するソフトでPhillips et al.(2006)によって開発されました。Maxentが他の手法と異なる部分は、一般的な環境情報と現地調査で得られた野生生物の確認情報のみを用意すれば良いことが挙げられます。Maxentによる解析結果が下図です。これはエゾサンショウウオの産卵適地予測確率を60%以上(この数値を高めることで適地がさらに絞られてきます。)とし、エゾサンショウウオの産卵の可能性のある場所を表示したものです。今回の解析には、エゾサンショウウオの確認位置、斜面傾斜、植物群落、土壌水分指数を用いました。
図 エゾサンショウウオの産卵適地(赤色)
今後も野生生物の生態等の知見が増えていけば、様々な野生生物でもこれらの解析の応用が可能となります。これからも、現地調査はもちろんのこと、このような解析技術を活用し、野生生物の保全のために努力していきたいと思います。
【参考資料】
Steven J. Phillips, Robert P. Anderson, Robert E. Schapire.
Maximum entropy modeling of species geographic distributions.
Ecological Modelling, 190:231-259, 2006.