自然環境部 海域担当チーム
北浦 愛望
当通信のバックナンバーでは、藻場を生息場所として利用する生物たち、例えばワレカラ(Vol.46)、ウニやアワビ(Vol.33)、ウミタナゴ(Vol.25)などを紹介してきました。藻場を生息場所として利用するこれら生物たちのサイズは、数センチから数十センチ単位の比較的小型なものが大半を占めています。
一方、これらよりずっと大きな生物たちも海藻をさまざまな目的で利用しています。その代表例がラッコです。北海道では、襟裳岬やユルリ島、納沙布岬、霧多布岬など道東を中心に藻場の利用が観察されています1。
東部北太平洋沿岸に生息するラッコは、キーストーン種として知られています。キーストーン種とは、生態系において極めて重要な役割を果たし、その存在が生物群集全体に大きな影響を与える種のことを指します2。三谷ら(2019)は、北海道に生息するラッコの個体群は二枚貝やウニを主な餌にしていると報告しています3。
ラッコは、休息時に波にさらわれないよう海藻を体に巻き付ける様子が海外で観察されていますが、北海道に生息する個体群についても同様の習性が確認されており4、大型海藻類であるコンブの仲間を利用しているようです。

写真1. 海藻を体に巻き付けるラッコ
また、さらに大型な動物たちにとって、海藻は食べ物や遊び道具にもなります。例えば、海棲哺乳類のジュゴンは海藻を食べて生活しています。また、イルカ、シャチ、クジラの仲間については、海藻をヒレに引っかけてみたり、頭に乗せてみたりして遊んでいる様子が観察されています(写真2)。
このように、海域生態系のキーストーン種を含め、海に生息するさまざまな生物たちにとって、藻場は欠かせない存在であるといえるでしょう。

写真2. 水面海藻を胸ビレに引っかけようとするシャチ (筆者撮影)
参考文献
1.Hattori, K., et al. 2005. History and status of sea otters, Enhydra lutris along the coast of Hokkaido, Japan. Mammal Study 30, 41-51
2.日本生態学会. 生態学入門 第6版. ㈱東京化学同人, 2017, p.235-237.
3.三谷曜子ら. 2019. 道東沿岸域において再定着しつつあるラッコの摂餌生態の解明. 自然保護書生基金助成成果報告書 28, 116-122.
4.海藻を体に巻き、波でゆらゆら 北海道納沙布岬で野生のラッコ. 朝日新聞. 2024-9-5, 朝日新聞デジタル. https://www.asahi.com/articles/ASS943FKPS94IIPE014M.html?msockid=0b33352f6adb6d0b139b215e6ba76c29. (2025-2-12参照)